January 162013
阿武隈や朝靄に溶く白き息
増田明美
明美は言うまでもないけれど、日本を代表する元マラソン・ランナー。引退するまでの13年間に日本最高記録を12回、世界最高記録を2回更新した逸材である。現在はスポーツ・ジャーナリストとして活躍中だ。この人のマラソンを主としたスポーツ解説は押し付けがましくなくて、とてもていねいでわかり易い。いつも安心して聴いていられる。彼女は現在も毎日一時間はジョギングを欠かさないという。「走って俳句を作る“ジョギング俳句”を楽しんでいます」という。冬の早朝、福島県阿武隈川の堤防を走っているのだろう。厳しい寒気のなかでせわしなく吸う息・吐く息が、刻々と朝靄にまじり合う。吐く息が朝靄に溶け合って白くなって行く、という早朝の健やかな光景である。熱心に走っている本人は決してラクではないだろうけれど、どこかしら張り切って楽しんでいる表情も見えてくるようだ。金子兜太はこの句を秀逸と評価して、「体に柔らかい美がたまっていると思った」「言葉が自ずから美しく響いてくる」と評言している。明美は「カゼヲキル」という小説も刊行した才人である。他に「エプロンで運ぶサラダは春キャベツ」という女性らしい句もある。『金子兜太の俳句塾』(2011)所載。(八木忠栄)
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