January 272013
一禽の影も許さじ結氷湖
奈良千代子
作者から、掲句は、1981年の冬、「北海道新聞」の俳壇に掲載されたと聞いています。室蘭で活躍した俳人で、掲句は息子さんの運転で、厚岸まで吟行したときの作です。当時、室蘭から厚岸まで車で10時間。北海道の中でも比較的温暖で開けている室蘭から、極寒の地に辿り着いた感慨もあったでしょう。空には鳥一羽さえも飛んでいない。地上にも動物は一匹もいない。助動詞「じ」が生き物の存在を禁じ、切り、結氷湖の存在のみを示します。「一禽の〜許さじ」は、「一切〜ない」という語法にも通じますし、藤原定家の「見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮」にも通じる無の世界です。また、カ行音と「じ」の配列が、硬く凝縮した湖面に響くような韻律があります。(小笠原高志)
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