February 182013
乗り継いで鴬餅は膝の上
小田玲子
進物用に「鴬餅」を求めた。近畿地方の名物である。乱雑に扱えば、せっかくの美しい鴬餅が、箱の中で偏ったり形が崩れたりしてしまう。だから乗り継ぐ度に、丁寧に膝の上に置いておくのだ。この行為だけをとれば、日常的に誰もがやっていることであり、特別に珍重すべきことではない。しかし、作者があえてこうして俳句に詠んだのは、このときのこの行為に、言外の思いをこめたかったがためだろう。つまり、これから訪ねていく先の相手に対する緊張感のほどを、平凡な行為に託したかったということだ。そのことによって、なんでもない日常的な行為が、作者にとっては特別な意味があることを、さりげなく読者にささやくかたちで告げようとしている。けれん味の無い詠みぶりだけに、読者にもその思いが抵抗感なく伝わってくる。日常を日常として詠むことにより、人生のある断面がすうっと濃く浮かび上がってくる。俳句の面白さの一つが、ここにある。『表の木』(2012)所収。(清水哲男)
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