April 092013
雨音を連れ恋猫のもどりけり
永瀬十梧
猫と雨とはゆかりが深い。よくいわれる「猫が顔を洗うと雨」は、湿り気を嫌う猫がヒゲをしごく動作で、個体差はあるものの実際に湿度が高い日や低気圧が近づいているときに頻繁に見られる。確かにわが家で飼っていた猫も、雨の日にぐいぐいと顔をこすりつけにくることがあった。あれはきっと人間の衣服で湿気を拭っていたのだろう。掲句では、下り坂となる天気の気配を感じつつも、いさましく出かけていった猫が、いよいよ雨がぱらつき始めたとき、やむをえず志半ばで引き上げてきたのだ。ガラスに伝う雨粒を恨みがましく眺めながら、いかにも不満気な様子が続いて見えるようだ。さらには恋の首尾さえ愚痴っているようにも思えてくる。それにしても、本能にまかせながら、人間と折り合って暮らす猫とは面白い生きものだ。先週末は西日本、東日本ともに大荒れの天気となり、すっかり桜も散ってしまった。きっと日本中の猫が一斉に顔を洗っていたことだろう。〈花過ぎのしづかな空を川流れ〉〈さへづりのあたりきらきらしてゐたり〉『橋朧ーふくしま記』(2013)所収。(土肥あき子)
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