April 162013
春月の弦やはらかく傾きぬ
宮木忠夫
上弦と下弦の具合がいまひとつ分からない。月を弓に見立てたときの弦が上を向いているか、下を向いているか。昇るときに上に向いた弦は、沈むときには下へ向くのだからなおのこと混乱する。調べてみると、満月に向かうときの半月を上弦、新月に向かうときの半月を下弦というらしい。一度はしっかり理解しなくては……と調べるのだが、調べるほどに無粋に思われて、いつも挫折をしてしまう。長谷川町子の『サザエさんうちあけ話』で、サザエさんの連載中読者から「何月何コマの絵は満月だったが、上弦の月でなければおかしい」という投書を紹介した際の絵が、今度は「上弦の月の絵がおかしい」との指摘が入り、「ダブルエラーですみません」と作者が深々と頭を下げている図がある。それはまるでこの鑑賞を何度も書き直している自分の姿にも重なる。とにもかくにも春月は、しっとりと水分をたっぷりと含んだほのぼのと淡く霞む月である。夜空をめぐるそのとき、身にまとう水分にうっとりと杯が傾くがごときに見えるのだ。というわけで、今宵は月齢5.7の月。『初雁』(2013)所収。(土肥あき子)
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