June 172013
いっぴきの金魚と暮らす銀座に雨
好井由江
旅先で雨が降ってきたりすると、なんとなく留守にしてきた家のことが気になったりする。この作者の気持ちには、それに近いものがあるだろう。東京に住んではいても、多くの人にとっては「銀座」は普通の街ではない。誰かに会うとか買い物に行くとか催し物を観るためにとか、たいていは何かちゃんとした目的があって出かけるところだ。その意味から言うと、銀座は旅先のようなものなのである。そんな銀座にいて、雨に降られている。にわか雨なのか、急に雨脚が強くなってきたのか。いずれにしても、思わず空を見上げてしまうような雨の中で、作者は飼っている「いっぴきの金魚」のことを思い出している。案じるというほどではないけれど、ちらりとその姿が気になっている。そしてこのときに作者は、常日ごろ金魚と「いっしょに暮ら」しているんだなあ、家族みたいな間柄なのだなあという実感を抱いたのだった。銀座の雨が金魚いっぴきと結びつく。切なくも洒落た句境と読んだ。『風の斑』(2013)所収。(清水哲男)
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