July 032013
夏の旅雑技(サーカス)の象に会ひてより
財部鳥子
女性六人(高橋順子、嵯峨恵子、他)による歌仙「上海渡海歌仙・雑技の巻」の発句である。いずこのサーカスにせよ、サーカスの〈花〉は何といっても象である。馬や熊、ライオンなど多くの動物が登場しても、あの巨体でのっそりとけなげな芸を披露してくれる象こそ、サーカスの花形であることはまちがいあるまい。上記の歌仙に付して森原智子が「いつか中国旅行の途次、財部鳥子、高橋順子といった方たちと歌仙を捲いたことがあった…」と書いている。この歌仙全体を読みこんでみると、遣われている言葉から推して、どうやら中国旅行に出かけたときの成果のように思われる。この発句は旅先上海への挨拶であろう。私事になるが、十数年前に鳥子を含む詩人たちで中国を公式訪問した際、サーカスではないけれど、上海雑技団のいくつかの曲芸などの舞台公演を見て、その高度なワザに度肝をぬかれた思い出がある。掲句は、やはり「象に会ひて」より上海雑技(サーカス)は始まり、旅が始まったということなのだろう。どこかしら夏の旅心も異国にあって、うれしそうにはずんで感じられる。歌仙での鳥子の俳号は杜李子。同じ歌仙の「月」の座で、杜李子は「満月をそのままにして子は眠り」と付けている。『歌仙』(1993)所収。(八木忠栄)
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