RIq句

August 1082013

 アルバムは燃やしてしまえ遠花火

                           樋口由紀子

者はひとり部屋の中で遠花火を聞いている。かすかな中に時折確かに響くその音に、昔家族で見た花火のことなど思い出されるのだろう。遠花火の音をきっかけによみがえってくる数々の記憶が、失ったものへの追慕となってやりきれない感情と共に、燃やしてしまえ、という強い言葉を生む。その口調の強さと遠花火の静けさとの対比が、作者の慟哭を際立たせているようにも思える。掲出句の数句前に〈父が逝く籠いっぱいに春野菜〉とある。しばらく時が経って季節が動いた頃ふと感じる淋しさ、娘にとって父親はやはり特別な存在なのだと、亡くしてみてわかるこの頃である。『樋口由紀子集』(2005)所収。(今井肖子)




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