日本海側は豪雨、太平洋側は猛暑。今月を象徴する天候で八月尽。(哲




2013N831句(前日までの二句を含む)

August 3182013

 露の身を置く宮殿の鏡の間

                           大木さつき

の身、露の世、露けし、など人生の儚さにたとえて詠まれることの多い、露。未だそういう露の句は自分ではできないのだが掲出句の、露の身、には実感があるように思えた。栄華の歴史を象徴する美しい宮殿の大広間、壁も天井も鏡が張り巡らされているのだろうか。そんな異国の色彩の中に、ぽつんと映る自分の姿がある。しばらくそこに立っているうちにふと浮かんだ、露の身、であったのだろう。ドイツの旅十句のうちの一句、他に〈古城はるか座せば花野に沈みけり〉〈身に入むやみづうみにある物語〉など。『遙かな日々』(2007)所収。(今井肖子)


August 3082013

 玄関のただ開いてゐる茂かな

                           波多野爽波

でもない光景のようだが、中七の「ただ開いてゐる」に注意。「開いてをりたる」ならば、単なる情景描写だが、「ただ開いてゐる」と表現すると、通常の空間は、異次元の空間に変化する。玄関の外には、虚無感ただよう生々しい茂りが広がっているのだ。何気ない日常から切り取られた風景は、作者の心の中で、不気味さを増している。『骰子』(1986)所収。(中岡毅雄)


August 2982013

 ネクタイのとける音すずしい

                           岡田幸生

由律俳句である。5・5・4の構成で俳句を聞きなれた耳には、その字足らずが句の内容と相まって風通し良く感じられる。季語の「新涼」は少し爽やかな風を感じたとき、「涼し」は暑さの中に見出す涼気であるが、この句の「すずしい」はあくまで固いネクタイの結び目をとく音に付随したものだから、季語の本意とかかわりはないだろう。クールビズのいきわたった今は通勤電車を見渡してみてもネクタイをしていない人の方が多いが、ちょっと前までほとんどサラリーマンは夏でも背広にネクタイの暑苦しい姿で出勤していた。そう考えると一日中締めていた襟元を緩めて絹のネクタイをほどく音が涼しげに聞こえるのはこの季節ならではと思える。帯を解く音、ネクタイをとく音、シルクのワンピースの裾をさばく音、そういえば絹には「すずしい」音があるなぁと句を読んで思った。『無伴奏』(1996)所収。(三宅やよい)




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