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October 15102013

 終の家と思へば匂ふ榠樝の実

                           井上ひろ子

ままな一人暮らしのときは、たびたび引越しを重ねていた。それは気分転換のひとつでもあり、新しい洋服を買うような気軽さだったが、結婚して現在の家に移ってからは18年間ずっと同じ家に住んでいる。居心地が良いこともあるが、引越しそのものが面倒になったのだ。長く生きていればいるほど、荷物は増える。それを整理し、分類し、始末する労力と割かれる時間がどうにも惜しくなったのだ。作者は今の家を見上げ、ふと、もう引っ越すことはないだろうな、と思う。それは年齢から余生の数字を換算する行為でもある。青空に貼り付くように実る鮮やかな果実が、この地に根をおろした自分の姿とも重なり、ひときわ愛おしく濃く匂うのだろう。『偏西風』(2013)所収。(土肥あき子)




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