December 012013
蜜柑捥ぎ終へてありけり蜜柑山
齋藤春雄
蜜柑狩りの句でしょう。晴天の昼間、たわわに実る蜜柑畑の中に入って、はさみ片手に一つずつ捥(も)ぎ取り、かごに入れていきます。年譜によると作者61歳の句で、背よりも少し高い所にも手を伸ばし、シャンとした気分になっています。帰り道、かご一杯に盛られた蜜柑はずっしり重く、今日の収穫を喜びながらふり返ると、青空の中、蜜柑山は健在で、作者たちがかご一杯に取り尽くそうが蜜柑山は蜜柑山のままです。心地よい敗北感。捥ぎ取っても捥ぎ取っても蜜柑はたわわに陽光を受け、陽光そのものの色彩と香りを恵み続けています。掲句では「ありけり」が二重に効いていて、かごの中の蜜柑の存在を示す過去の「けり」と、今、距離を置いてふり返った蜜柑山への詠嘆の「けり」です。「蜜柑」という語もふくめて巧妙に一句の中で反復をくり返して、鈴なりの蜜柑を表出しているように読みました。『櫻館』(2122)所収。(小笠原高志)
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