q句

December 09122013

 狐火やある日激しく老いてゆく

                           黒崎千代子

火の正体には諸説ある。遠くの山野で大量に発生し、あたかも松明を掲げた行列のように見えるというが、私は見たことがない。黒澤明の映画に夢をテーマにした作品があって、その第一話に狐の嫁入りの情景が出てきたけれど、あの行列の夜の模様と解すれば、かなり不思議であり不気味でもある。そんな狐火を見たのだろうか。作者はその途端に急激に老いてゆく自分を感じたと言うのだが、こちらのほうはうなづける気がする。普通、老いはじわじわとやってくると思われているけれど、私の実感ではある日一気に老化が進行したような気になったことが何度かある。足腰の弱りなどは、代表的な例だ。そんな肉体の衰えの不思議を狐火に結びつけた作者は、狐火に呆然とするように自分自身にも呆然としている。それが老いることの不思議であり怖さでもある。昔草森紳一が「一晩で白髪になるのだから、逆に一晩で黒髪に戻ることもあるにちがいない」と言ったが、残念なことに若返りのほうの不思議は起こらないようだ。『未来図歳時記』(2009)所載。(清水哲男)




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