V句

January 1612014

 孫を抱く孫は猫抱く炬燵かな

                           柳沼新次

いなぁ。おじいちゃんの膝にすっぽりはまる孫の暖かさ、孫の腕の中で眠る猫はすやすや。団子のように身を寄せ合ってあったまるのが冬の楽しみ。マンション暮らしの床暖房で長らく炬燵と無縁の生活をしている私などは、ほのぼのとした炬燵の風景に憧れてしまう。炬燵の上にはミカンがあって、孫のぬくもり猫のぬくもりが心地いい。掲句が収録されている句集の多くは介護度5の妻を支える日常を静かな心で受け止め詠んだ句が多い。「三十歩歩けた妻にポインセチア」「羽布団横掛けにして二人して」それと同時に老年を来て小春日和のようなひとときがある喜びをこれらの句から感じることが出来る。『無事』(2013)所収。(三宅やよい)


August 0782014

 原爆忌テレビ終れば終るなり

                           柳沼新次

年八月六日になればテレビで広島での原爆死没者慰霊式の様子が放映される。献花の後に8時15分原爆投下時の黙祷、平和宣言などが続く。原爆投下直後の街の凄まじさについて被爆者である義父はあまり語らなかった。瀕死の妻を抱えて命からがら脱出した土地で傷を養い、ゆっくり回復していったようだ。当時新型爆弾と呼ばれ、放射能の影響がよくわかっていない中で様々な憶測や流言飛語が乱れ飛んだだろう。そのさなかに避難してきた被爆者を介護した広島周辺の人々と、爆心地へ救助に入った人たちの勇気を合わせて思う。慰霊式の中継が終われば普段の番組が始まり、見る側の私たちも日常に戻ってしまう。「終れば終るなり」と強い断定で言い切ったことで、そのあとの余白にあの日起こったことが今も持続していることを強く感じさせる。八月九日には長崎原爆犠牲者慰霊の日を迎える。無慈悲に人を破壊するのも、傷ついた人を助けるのも人間である事実を忘れたくはない。『無事』(2013)所収。(三宅やよい)




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