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May 1352014

 綿津見の鳥居へ卯浪また卯浪

                           藤埜まさ志

波とは陰暦四月、卯月の波のことだが、決して静かな波ではなく、晩春から初夏にかけての低気圧によって立つ白波をいう。綿津見(わたつみ)に立つ鳥居といえば、まよわず宮島の大鳥居が浮かぶ。淡々と景色を写生した掲句だが、口にすればたちまち海の深い青、続けざまに寄せる波頭の白、そして鳥居の朱色が眼前に立ち現れる。それは合戦の昔から図絵に描かれた景色であり、また世界文化遺産となって残る今日の景色でもある。目にも鮮やかな鳥居の朱色は邪気を祓うと同時に、丹を塗ることで腐食も防ぐという実利も兼ね備えていた。先人の知恵と工夫が日本人の美意識として引き継がれ、またそれを言葉にして愛でることができる喜びが潮のように胸に満ちる。『火群』(2014)所収。(土肥あき子)




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