東京に灰色の空が戻ってきた。湿った大気が窓から入ってくる朝。(哲




2014ソスN6ソスソス18ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

June 1862014

 梅雨樹陰牡猫が顔を洗ひ居り

                           木山捷平

が顔を洗うと雨が降る、という言い伝えを捷平は知っていて、この句を作ったのだろうか。梅雨どきだから、猫はふだんよりしきりに顔を洗うのだろうか。さすがの猫も梅雨どきは外歩きもままならず、樹陰で雨を避けながら無聊を慰めるごとく、顔を撫でまわしている。ーーいかにものんびりとした、手持ち無沙汰の時間が流れているようだ。猫はオスでもメスでもかまわないだろうが、オスだから、何かしら次なる行動にそなえて、顔を洗っているようにも思われる。猫の顔洗いはヒゲや顔に付いた汚れを取る、毛づくろいだと言われる。しとしとと降りやまない雨を避けて、大きなあくびをしたり、顔を洗ったり、寝てみたりしている猫は、この時季あちこちにいそうである。ちょっと目を離したすきに、どうしたはずみか、突如雨のなかへ走り出したりすることがある。捷平が梅雨を詠んだ句には「茶畑のみんな刈られて梅雨に入る」がある。『文人俳句歳時記』(1969)所収。(八木忠栄)


June 1762014

 でで虫の知りつくしたる路地の家

                           尾野秋奈

で虫、でんでん虫、かたつむり、まいまい、蝸牛。この殻を背負った生きものは、日本人にとってずいぶん親しい間柄だ。あるものは童謡に歌われ、またあるものは雨の日の愛らしいキャラクターとして登場する。生物学的には殻があるなし程度の差でしかないナメクジの嫌われようと比較すると気の毒なほどだ。雨上がりをきらきら帯を引きながらゆっくり移動する。かたつむりのすべてを象徴するスローなテンポが掲句をみずみずしくした。ごちゃごちゃと連なる路地の家に、それぞれの家庭があり、生活がある。玄関先に植えられた八つ手や紫陽花の葉が艶やかに濡れ、どの家もでで虫がよく似合うおだやかな時間が流れている。〈クロールの胸をくすぐる波頭〉〈真昼間のなんて静かな蟻地獄〉『春夏秋冬』(2014)所収。(土肥あき子)


June 1662014

 夏帽子肘直角に押さへをり

                           梶川みのり

が強いので、飛ばされないように手で帽子を押さえている。それだけのことを詠んでいるのだが、「肘直角に」が効いている。すらりと伸びた白い腕が、風のなかでしなやかに、しかも直角に位置していて、何気ない仕種にもかかわらず、健康的で伸びやかな若い女性のありようを一言で言い止めている。作者は女性だが、この視点はむしろ男のそれかもしれない。いずれにしても、ほとんどクロッキー風と言ってよい描写の的確さに、心地よい読後感が残った。句全体に、気持ちの良い夏の風が吹いている。『新現代俳句最前線』(2014)所載。(清水哲男)




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