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August 1082014

 尺取虫一尺二尺歩み行く

                           小林 凛

の夏、長野の山中で尺取り虫を見ました。登山口に置かれた木の机の上を、「く」の字「一」の字を繰り返し「歩行」するのですが、5cmほどの体長の全身を使って「歩行」するのであんがい速く、縦横1m程の机を5分程で一周するスピードでした。二周目に入って、この周回を延々と続けるのかと思っていたら、四隅の角から糸を垂らして見事地面に着地。自然界へと回帰していきました。掲句は、凛くんが11歳の時の作。句の直後に、「いじめられて学校を休んでいます。道で尺取り虫に出会いました。人生あせらずゆっくり行こうと思いました。」とあります。この句には「尺」の字を三度使って、その歩みを視覚化する工夫もあるようです。同じく11歳の作に「蟻の道シルクロードのごとつづく」「おお蟻よお前らの国いじめなし」「蟻の道ゆく先何があるのやら」。凛くんは、体が小さく生まれたせいで、小学校一年から五年までいじめの標的になります。そんな時、野山に出て俳句を作りました。凛くんにとって不登校を選んだことは、学校の四角い教室からの脱出であったと同時に、自然へと回帰していくことでもあったのでしょう。人間が作った教室という枠組よりもずっと広い、尺取り虫や蟻の道ゆく世界に接近し、そこに参加させてもらって、自身の居場所を俳句を作ることによって獲得していった。そんな、生きものとしての強さを物語っています。凛くんの眼は、接写レンズのように対象をくっきりとらえ、それを伝えています。8歳の作に「大きな葉ゆらし雨乞い蝸牛」。句の直後に「登校途中、大きな葉に蝸牛がはっているのを見て詠みました。」とあります。『ランドセル俳人の五・七・五』(2013)所収。(小笠原高志)




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