August 142014
吾輩にやあと海水浴の客
田辺須野
今年は漱石が『こころ』の連載を始めて100年目の記念の年だそうで、朝日新聞に再連載されている『こころ』を読むことから一日が始まる。7月19日には船団の会主催で『東京漱石百句』フォーラムが東京神楽坂で行われた。漱石にまつわる一句も同時に募集し、漱石の作品の題やエピソードを詠みこんだ句が多数披露された。掲載句も『こころ』の冒頭で主人公が先生と出会う鎌倉の海岸の場面を思い起こされる。先生が「やあ」と片手をあげて合図する姿と「吾輩は猫である」の「にやあ」が読み方によって浮上してくる。現実の場面が物語世界の言葉を織り込むことで膨らみを増す、その重層性は読み手側にも共通知識があってこそ理解される。そんな俳句世界が芭蕉の時代からあった。身近なことを題材に詠む俳句と並行して、このような試みがどんどん句集に織り込まれても面白いのではと思う。『こきくくるくれこよ』(2014)所収。(三宅やよい)
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