August 2482014

 大佛の中はからつぽ台風過

                           小口たかし

年は初夏からいくつもの台風が過ぎていきました。甚大な被害に遭われた方も多く、年々その規模が拡大しているように思われます。私もちよっとした影響を受けました。出張先で、道を倒木に遮られ迂回したり、送電線に倒木が寄りかかっているのを、電力会社の人が復旧させている様子を目撃したりです。日本列島に住む者にとって、台風は避けられない脅威です。日常を一変させる災害をやむなく受け入れてきた日本人が、仏教から無常の思想を取り入れたのも自然ななりゆきです。掲句は、大佛の背後を台風が通過する様をとらえています。疾走する雲と不動の大佛。たぶん雨は降っていません。ただ、風には熱風がふくまれています。いつもより輪郭がくっきりしている大佛をながめながら、作者は、ゆく川の流れのように刻々と変化していく空模様に無常をみると同時に、不動の大佛に常住している「からつぽ」の空気に停滞を見いだしたのではないでしょうか。たしかに、大佛の中は換気が悪そうです。大佛という人工物をシニカルに見つつ、台風が過ぎた後の澄み切った青空を予感させます。『四重奏』(1993)所収。(小笠原高志)




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