2014N96句(前日までの二句を含む)

September 0692014

 青空とそのほかは蘆の葉の音

                           林紀之介

の蘆はちょうど今頃か、水辺にまだ青々と広がっているのだろう。真夏の青蘆の潔さは消えかけていて、渡る風音は少し乾いている。日々澄んだ青さをとり戻しつつある空、目の前には蘆原が広がり、作者はその風音の中に立っている。この句を一読した時不思議な感覚を覚えるのは、そのほかは、が視覚と聴覚をつないでいるからかもしれないが、それが違和感ではなく心地よい余韻を生んでいるのだ。空の青はまず蘆原の青につながり、そこにただ、葉の音、と言って風を感じさせることで、五五七のリズムとともに秋の爽やかな静けさが広がってゆく。<いい声の物売りがゆく鰯雲><近々と遠くの山の見えて秋>。『裸木』(2013)所収。(今井肖子)


September 0592014

 いぶしたる爐上の燕帰りけり

                           河東碧梧桐

葺の古民家が目に浮かびます。真っ黒に煤けた大黒柱があって爐(いろり)があってボンボン時計がある。そんな爐上に何故だか燕が巣を作った。成り行きながら雛がかえって巣立ちもした。この家の者も愛しみの眼差しを向けて日々雛の成長を楽しみにする。時々寝言で鳴く「土食って渋ーい、渋ーい」に寝付かれぬ夜もある。何匹かの子燕の特徴を識別して名前など付けてしまう。そして燕たちが自分の家族とも思はれて来る頃その日は来る。見知らぬ遠い国へ旅立ってしまうのだ。後にはぽかんとした空の巣がそこにあるだけ。誰にでもやって来るその日はある。『碧梧桐句集』(1920)所収。(藤嶋 務)


September 0492014

 十五夜の覗いてみたき鳥の夢

                           岡本紗矢

年の十五夜は例年より早く来週の月曜9月8日だという。きっとその日は澄み切った中秋の名月が煌々と夜空に上がることだろう。鳥たちは木々に宿りどのような夢を見ているのか。犬などは眠りながら小さくほえていることがある。犬の夢に出てくる犬は昼間すれ違った犬?近所の気になるカワイコちゃんだろうか。鳥の夢は空飛ぶ鳥の視界に入る地上の風景だろうか。掲載句では「覗いてみたき」と鳥の夢の内部に踏み込んでゆく言葉が魅力的。夜空に照る満月が違う世界が見える覗き穴のようにも思えてくる。十五夜の鳥の夢、月を通せばそんな不思議も覗ける気がする。『向日葵の午後』(2014)所収。(三宅やよい)




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