October 062014
包丁を研ぎ台風を待ちゐたり
座間 游
気象情報に台風接近中とあれば、多くの人は身構える。しかし、身構えたところで、たいていの人には特に対処する方策もない。庭の植木鉢を片づけたり、日頃気になっている家屋の弱そうなところを点検したりすることで、あとはすることもない。本番を待つばかりとなる。やって来る台風の強度も正確には判断しかねるから、そこはこれまでの経験に頼るしかないからだ。そんななかで、作者は包丁を研ぎすませた。別に大雨や大風への備えとは無関係なのだが、とにかくこうして台風を待っている。でも、これは決して頓珍漢で滑稽な備えとは言いきれないだろう。おそらく作者は、日頃から包丁を研いでおかねばと気になっていたのである。そこで台風への「備え」という意識が、ごく自然に無関係な包丁研ぎへとおのれを駆り立ててしまったのだ。これに類似したことは、日常的ないろいろな場面で起きてくる。まことに、人間愛すべし…ではないか。『現代俳句歳時記・秋』(2004・学習研究社)所載。(清水哲男)
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