2015N419句(前日までの二句を含む)

April 1942015

 春星のめぐる夜空を時計とす

                           末永朱胤

時記の上では晩春となりましたが、掲句は、冬の名残のある初春の句でしょう。凍てついた夜空には、春の星座がくっきりと見えていて、しばらく佇んでいると、星座はゆっくりと動いているような気がします。贅沢な時計です。地球上で、一番大きな時計です。そして、デザインも美しい。空は深い色あいで、数多の星々が幾何的に結びついて、春の夜空をデザインしています。春星がめぐる天体の運行が時の経過を告げ、「時計とす」に、作者の意志が表れています。それは、高級腕時計をはめ て社会的な時間に生きることよりも、ときに、宇宙的な時間に身を委ねて、則天去私の境地に遊ばんとする意志です。俳誌「ににん」(2015年春号)所載。(小笠原高志)


April 1842015

 鶯のしきりに鳴いて風呂ぬるし

                           本田あふひ

の句を引いた『本田あふひ句集』(1941)は遺句集。手ざわりの佳い和紙の表紙で、大正五年から六十三歳で亡くなった昭和十四年までの作、百三十句余りが収められている。虚子の序文には「あふひさんが、一度ホトトギスの巻頭になりたいものだな、といはれたときに、私は<屠蘇つげよ菊の御紋のうかむまで >といふあなたの句がある。あなたは其一句の持主であるといふことが何よりも誇ではありませんか、と言つたことがある」というエピソードが語られている。格調高くおおらかな作風を持つ、女性俳句開花期の俳人の一人と言われているが、ふと呟いたような掲出句はどこかとぼけた味わいと人間味があって、思わず見開きの本人の写真を見返してしまった。鶯の声はきれいだったけれどちょっとお風呂はぬるすぎたのよ、でもまあゆっくり浸かってその声を楽しむにはちょうどよかったかしらね。くりっと大きい目でこちらを見ているあふひが、そんな風に言っているようにも思えてくる。(今井肖子)


April 1742015

 河原鶸天地返しの田に降りる

                           嶋崎茂子

原鶸は山林や田、河原などで群れをなしている雀に似た鳥で、飛ぶ時の鮮明な黄色で鶸だと分かる。双眼鏡で見るとピンクの太いくちばしと翼の太く黄色いしま模様が見える。見晴しのよい葦先にとまりキリキリ、コロロと鳴いたりジュイーンとさえずったりする。農事では厳寒期に土を氷雪にさらして病害虫を殺すために「天地返し」という作業がなされる。そんな労苦も終わった頃に春の兆しがやって来る。鶸の訪れもその一つである。今百羽にも及ぼうかという河原鶸の群れが一斉に大地に舞い降りてきた。春到来したり。その他<御慶いふ小さな町の小さな駅><夏草の匂ひいのちのにほひかな><冬鴎飛ぶといふこと繰り返す>などあり。『ひたすら』(2010年)所収。(藤嶋 務)




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