April 212015
土を出てでんぐり返る春の水
森島裕雄
手元の歳時記によると「春の水」とは、豊かであることが本意であるとされる。水が「でんぐり返る」ことで、勢いよく豊富な水量を思わせ、また春らしい瑞々しさを感じさせる。それはまるで、生まれたばかりの赤ん坊が誕生してすぐ大きな泣き声をあげるように、暗い地中を這っていた水が、春の日差しに触れたことで、喜びにもんどりうっているようにも見えるのだ。水が流れとして誕生する瞬間に立ち会っている感動に、作者もまた胸をおどらせながら春の水面を見つめているのだろう。〈筍ご飯涙のやうな味がして〉〈立ち乗りの少年入道雲に入る〉『みどり書房』(2015)所収。(土肥あき子)
July 092015
立ち読みの皆柔道部夏の暮
森島裕雄
いるいる。部活帰りの重そうなビニールバッグを足元に置いて、柔道部の連中が書店の雑誌売り場にコミック売り場にごそっと溜まって立ち読みをしている。見回りの先生が一瞥すれば、野球部のメンツ、サッカー部のメンツ、とすぐに判別がつくのだろう。それにしても柔道部ときたらみんなガタイがよくて、おまけに暑苦しそう。夏の暮は七時ぐらいになってもまだ明るい。通勤帰りの客がちょっと書店でも寄ってみようかと思う時間帯でもある。場所ふさぎの連中には退去してほしいが、店の人が声をかけるのも躊躇するぐらい迫力があるのかも。柔道部の連中もそんな店の雰囲気を察して大きな身体を縮こませて立ち読みをしているのかも。そんな情景を想像すると掲句の「柔道部」に何ともいえない愛敬とおかしみがある。『みどり書房』(2015)所収。(三宅やよい)
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