政府が声高に「憲法改正」を言い募る、この危険な現実。(哲




2015N53句(前日までの二句を含む)

May 0352015

 ピアノは音のくらがり髪に星を沈め

                           林田紀音夫

髪のピアニストが、音の光を奏でています。十指で鍵盤を叩くと、それは88本の弦に響き、流線型の黒い木箱が共鳴するとき、音は深く混ざり合う。単純ではないその音色に、人は喜びや楽しさに加えて、切なさや鈍痛をも耳にします。「音のくらがり」のないところに、「星」をみることはできません。ロマン・ポランスキー監督作品に、「戦場のピアニスト」という映画がありました。ポーランドの国民的作曲家であったユダヤ人のシュピルマンは、第二次世界大戦のさなか弾圧と逃亡の日々を過ご しますが、隠れ家でひそかにピアノを弾いていたところをドイツの将校に見つかります。しかし、その音色が美しかったので、連行されずに生き延びます。当時、ワルシャワには30万人のユダヤ人がいた中で、生き残れたのは22人。シュピルマンは、その一人です。聞いたところによると、シュピルマンの息子は、日本人女性と結婚して、現在、日本の大学で日本の政治を研究しているそうです。今日は憲法記念日です。憲法が国家の倫理なら、それは積極的なアクセルを踏もうとする合理主義にブレーキをかけるはたらきでしょう。国家という乗り物に必要な装置は、アクセルではなくまず第一にブレーキです。倫理とは、いいことをする正義ではなく、いいことをしようとする積極的な正義に対して待ったをかける 落ち着いたおとなしさです。日本の憲法は、人類の歴史で初めて、大人の落ち着きを成文化しました。憲法記念日の今日、砲弾ではなく、ピアノの音が永続できる日であることを願います。『林田紀音夫全句集』(2006)所収。(小笠原高志)


May 0252015

 春暑き髪の匂ひや昇降機

                           小泉迂外

ールデンウィーク前に東京は夏日、北海道では十七年ぶりの四月の真夏日だったという。いわゆる、いい季節、が短くなってゆくこの頃、なるほど春暑しか、と思ったが、常用している歳時記には無く見慣れない。そこで周りに聞いてみると、なんか詩的じゃない言葉ね、と言われた。確かに、惜しむはずの春がうっとおしく感じられる気もするし、夏近し、のような色彩も期待感もなくなんとなく汗ばんでいる。しかし、掲出句のエレベーターの中で作者が感じ取った髪の匂いは、夏の汗の臭いのようにむっとするほどでなく、かといって清々しいというわけでもなく、どこか甘く艶めかしい、まさに春暑き日の名残の匂いだったのだろう。何が詩的か、とはまことに難しい。『俳句歳時記』(1957・角川書店)所載。(今井肖子)


May 0152015

 囀りや野を絢爛と織るごとく

                           小沢昭一

鳥たちは春が来ると冬を越した喜びの歌を一斉に唄う。それぞれの様々な声は明るく和やかである。折しも芽生えた若葉の色彩と相まって野は誠に錦織なす絢爛さを醸しだす。こうした雰囲気に満ちた山野に身を置けばとつぷりと後姿が暮れていたお父さんの心にも春がやって来てしまう。お父さんもまた織り込まれた天然の一部となって「あは」と両手を広げる。本誌では小沢昭一100句としての特集であるが、所属した東京やなぎ句会では俳号を変哲という。他に<父子ありて日光写真の廊下かな><春の夜の迷宮入りの女かな><ステテコや彼にも昭和立志伝>など小沢節が並ぶ。「俳壇」(2013年5月号)所載。(藤嶋 務)




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