June 102015
飛魚や隠岐へ隠岐へと海の風
渡部兼直
先日、魚屋の店先にならんでいる、光っているイキのよい飛魚を見つけて買った。「飛魚」は夏の季語。南の種子島から、夏にかけては北海道南部まで北上して行くらしい。大きな胸鰭で海面すれすれに、先を競うように舳先をカッコよく飛ぶ。沖合でのあの姿には惚れ惚れと見とれてしまうし、格別旅情をかきたてる。飛魚が魚というよりも海風そのものになって、隠岐を目ざしてまっしぐらに飛ぶという句である。飛魚の干物のうまさはたまらないものがある。クサヤは最高。掲出句には思い出がある。九年前、東京からわれら詩人四人で、境港から出航して隠岐へ船旅をしたことがある。その際、米子在住の兼直さんが同行して案内してくれた。秋だったが、沖の強い海風を食らいながら島へ渡ったのだ。そのとき舳先を波しぶきあげて、スーイスイと飛魚が飛ぶのを目撃した。そのときの旅がモチーフになっている句かと思われる。お人柄もそうだが、自在で楽しい詩を書く兼直さんは俳句も作る。『続ぽえむかれんだあ』の序に「『俳』のない句では俳句にならない。ただ『短句』である」とある。むべなるかな。他に「飛魚の翅の雫や眉に風」がある。『渡部兼直全詩集2』(2015)所収。(八木忠栄)
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