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July 2172015

 空中で漕ぎし自転車雲の峰

                           中嶋陽子

ダルを漕ぐ姿勢は常に地から足が離れているという事実。普段気にとめない日常の動作が、実は空中で行っているものだと気づいたとき、ものすごい芸当であるような感覚が生まれる。そういえば、かつて自転車から補助輪を外したときの喜びは途方もないものだった。大人と同じであることが大きな自信につながっていた。実際、徒歩しかなかった行動範囲がずっと自由に大きく広がった瞬間だった。むくむくと盛り上がる入道雲に「こっちへおいで」と手招きされ、どこまでも行けるような晴れ晴れした心地をあらためて思い出す。〈山の神海の神ゐて風薫る〉〈短夜の声変へて子に読み聞かす〉『一本道』(2015)所収。(土肥あき子)


October 20102015

 差し入れに行く新米の握り飯

                           中嶋陽子

いしい新米があふれる幸せな季節。精米の場合、「新米」と表示してよいのは、生産年の12月31日までに精米され、容器に入れられたか、包装された米(米穀安定供給確保支援機構HPより)。新米は白さが際立ち、やわらかく粘りがあり、香りも豊か。そして、炊きたてはもちろん、冷めてもおいしいのでおにぎりにするにもうってつけ。差し入れのおにぎりにはたくさんの愛情やエールが込められている。真っ白のおにぎりが手に手に行き渡る光景を想像するだけで力がみなぎる心地となる。ところが、最近のベネッセの調査によると小学生の4人に1人が「他人が握ったおにぎりに抵抗がある」という。行き過ぎた衛生観念や、他人との距離感など、たくさんの理由はあるだろうが、なんとさみしいことだろう。その家によって力加減が違うことや、いろんな中身があることを知る機会がないなんて…、と昭和のおばさんはささやかに憂うのであります。〈鈴虫の羽ととのへてから鳴きぬ〉〈バスに乗るチェロバイオリンクリスマス〉『一本道』(2015)所収。(土肥あき子)




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