O句

October 10102015

 人の灯を離れて神の月となり

                           内原弘美

もいよいよ細くなり本日の月の出は午前三時過ぎだが、今年は佳い月が楽しめた。ことに満月、自宅ベランダから見ていると、新宿のビル群とその先の東京タワーの間に見え始めてからしばらくの間妖しいほどに赤かった。〈ビルにぶつかりながら月昇りけり〉(内原弘美)。ゆらりゆらりと街の灯を脱ぎ捨てながら昇ってゆく月は、濃い闇の中で次第に強く白く、孤高の存在となっていった。地上にゆらめく灯はそこに生きとし生けるものと共に存在し、天心に輝く月は変わらず神々しい光を放ち続ける。人の灯、神の月、短い一句の中にある確かな表現が大きい景を生み、人と月との長く親しい関係をも思わせる。掲出句はいずれも『花鳥諷詠』(2015年10月号)所載。(今井肖子)




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