2015N116句(前日までの二句を含む)

November 06112015

 音読の東歌の碑へ紋鶲

                           関口喜代子

外のとある場所に歌碑あり、東歌とある。「つくばねに・ゆきかもふらむ・いなおかも・・・」何やら声を出して歌を読んでいる。百人一首でもないしと耳を傾ける、筑波嶺、ああこれが万葉集か何かに出てきそうな調べ東歌だったのか。と、心も和んで辺りに眼をやれば色鮮やかな小鳥が枝を渡っている。つと歌碑に飛び移ったのを眺めればこれは翼に白い紋を付けた紋鶲であった。いつもこの頃になると同じ縄張りを巡ってくる。ヒッツ、ヒッツと火打石を打つような鳴き声から「火焚き(ビタキ)」と言われるとか。「いとしきころが・にぬほさるかも・・・」の音読に拍子をとるかのように、ヒッツヒッと鳴いて飛び去った。秋も長けた。他に<夫と描く初冠雪の夜明富士><騎馬戦へ太鼓の連打運動会><流木に座して友待つ秋日傘>などあり。俳誌「百鳥」(2015年1月号)所載。(藤嶋 務)


November 05112015

 立冬の水族館の大なまず

                           星野麥丘人

まずはの表記は魚編+夷、一般には鯰と書くことが多いがこの句ではずんぐりとした大なまずを強調する意味でこの漢字を用いているのだろう。水族館の暗い水槽に沈んでいる大なまずは季節の変化はほとんど関係がない。昨日、今日、明日同じ状態が持続していくだけである。「ひたすらに順ふ冬の来りけり」という句も並んでいる。身を切る寒さ、足元の危うい雪や凍結の道路。年を経るにしたがって、耐え忍ぶ冬を超えて春を待ちのぞむ気持ちは強くなる。いよいよ立冬。動き回ることが少なくり炬燵に立てこもる姿は大なまずと同じということか。さて今年の冬の寒さはどんなものだろう。『雨滴集』(1996)所収。(三宅やよい)


November 04112015

 十一月やぎ座と南の魚座のしっぽ

                           飯田香乃

年は小学生や中学生たちがさかんに俳句を作っているから、おじいちゃん・おばあちゃんたちもうかうかしてはいられない。ああでもない、こうでもない、と思案しているうちに、彼らはさらりヒョイと詠んでしまいかねない。香乃さんは酒井弘司の「朱夏」に属している中学二年生。幼稚園の年長さんのときから俳句を始めたという。おじいちゃん(弘司さん)に手ほどきを受けたらしい。あとがきに「私の俳句は、良く言うと大器晩成、悪く言うとなかなか上達しません」とある。やあ、末恐ろしいなあ。「頭にパッと良い句が浮かぶと、ハッピーになります」とも書いている。そのハッピーを経験したくて、大のオトナは四苦八苦しているわけです。でもなかなか……。魚座は晩秋の夕暮れに南中する。とにかく「やぎ」と「魚座のしっぽ」の取り合わせが少女らしく可愛くて、秋の夜空がいっそう美しく感じられる。字余りもこの際元気でいいなあ。他に「柚子風呂の柚子を蹴り蹴り温まる」の句も活発です。『魚座のしっぽ』(2015)所収。(八木忠栄)




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