2015N1114句(前日までの二句を含む)

November 14112015

 想像力欠けた男のくしやみかな

                           椿屋実梛

中、この句の三句前に〈 B型の男くぢらのごと怒る〉とある。同一人物か否かはわからないがいずれも、やや冷めた目で目の前の男性をしっかり観ている作者である。想像力に欠ける、とは具体的にどういうことなのかと考えると、相手の立場を思いやることができない、自己中心的である、というのもその一つだろう。そろそろ解放されたいなと思っていた作者の前でひたすらマイペースでしゃべり続けていた男が、ハクションチキショー、みたいな大きいクシャミをする。我に返ったかのように、お、もうこんな時間か、オレ帰るわ、などと言って歩き出す彼は、クシャミも含めデリカシーの感じられない存在である。ちなみに同集中に〈蛞蝓のやうな男に好かれをり〉という句もある。鋭い観察眼と巧みな表現力に感心しつつ、作者の幸せを願っている。『ワンルーム白書』(2015)所収。(今井肖子)


November 13112015

 蹲踞をよぎる日月火焚鳥

                           原 朝子

踞(つくばい)は茶室に入る前に、手を清めるために置かれた背の低い手水鉢に役石をおいて趣を加えたもの。手水で手を洗うとき「つくばう(しゃがむ)」ことからその名がある。この手水を使う日月もいつしか永らえて人生の一部となってしまった。この季節に決まって渡ってくるジョウビタキが今日もヒィーッ、カチカチと鳴いている。日月に続くヒタキの表記に火の字の火焚鳥とは何とお洒落なことだろう。日常は今週も日月火と繋がってゆく。<夜長人火を足す如く言葉継ぐ><代代の器用貧乏蔦紅葉><山茶花や日輪忽と雲を割る>。「俳壇」(2015年1月号)所載。(藤嶋 務)


November 12112015

 ヒップホップならば毛糸は編みにくし

                           岡田由季

枯らしが吹いて、そろそろ厚いセーターやマフラーが恋しい季節になった。以前は電車の中や病院の待合室でも編み棒をせっせと動かしてセーターやマフラーを編んでいる人を見かけたが、軽くて安くて暖かい冬の衣料がいくらでも手に入る昨今、とんと見かけなくなった。ただひたすらに記号に沿いながら編み針をうごかしている時間は無心になれて楽しいものである。そこにクラッシックでも流れていれば編み針もスムーズに進むのだろうが、ヒップホップで調子がついてしまうとさぞ編みにくかろう。ヒップホップのリズムで身体を跳ね上げながら編み物をしている姿を想像しておかしくなってしまった。こういうユーモアを持った俳句、とてもいい。『犬の眉』(2014)所収。(三宅やよい)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます