2015N1128句(前日までの二句を含む)

November 28112015

 小春日の人出を鴉高きより

                           上野章子

春には呼び合うように鳴きかわし、やがてつがいとなって繁殖期を迎え、子育てが終わると再び集団で森の中にねぐらを作って冬を越すという鴉だが、冬の鴉というと黒々と肩をいからせて木の枝に止まっている孤高なイメージがある。この句を引いた句集『桜草』(1991)の中にも〈鴉来てとまりなほさら枯木かな〉とある。まさに「枯木寒鴉図」といったところだが、そんな寒々とした鴉とは少し違った小春日の景だ。実際は作者が鴉を見上げているのだが、読み手は一読して鴉の視線になる。小春の日差しに誘われて青空の下を行きかう人間達を、見るともなく見ている鴉。その鳴き声がふと、アホ〜、と聞こえたりするのもこんな日かもしれない。(今井肖子)


November 27112015

 城近き茶店の池の浮寝鳥

                           同前悠久子

光や散歩で人々が訪れる名所旧跡に茶店はつきものである。そしてお堀とか池とか噴水など水が風景を飾る。その水の風景のアクセントとなって様々な鳥たちが人々の目を楽しませている。どんな鳥か暫く観察する。白鳥、鴨、鳰、鴛鴦などを発見。秋に渡って来てここで越冬し春には帰っていくものもいれば、ここに居着いた鳥も居る。水に潜ったり翼に嘴をさし入れたり様々な姿態で点在している。水上に浮かんで寝ているものが居る、浮き寝鳥という。鴨ならば浮き寝鴨とでもいうところ。一杯の珈琲の寛ぎタイムも流れさって、人間はそれぞれの持ち場に帰ってゆく。鳥たちはのんびりと眠り続ける。他に<花枇杷を待つ日々は佳し恋に似て><足元にかすかに揺るる黄千両><玉子酒ふと作りたしひとり居の>などあり。俳誌「ににん」(2015年冬号)所載。(藤嶋 務)


November 26112015

 空色にからまりからまり鶴来たる

                           こしのゆみこ

路で見る丹頂鶴はその大きさも美しさもずばぬけているが渡りはしない。全体が黒っぽいなべ鶴の飛来地は鹿児島県出水、山口県八代で、縁あってその両方で鶴が来るのを見たことがある。昔日本各地のどこにでも来ていた鶴は狩猟でとりつくされ、一時は絶滅の危機になったが、飛来地の農家が餌付けしながら増やし、今では相当数は増えたと聞く。なべ鶴は丹頂鶴ほど大きく美しくもないが、数羽連れだって冬空を飛んでくる様は力強い。雲のない青空をじっと見つめていると細かい無数の点がだんだんと大きくなってきて、羽がからまりそうな近さで羽ばたきながら数羽の鶴が飛んでくる。「空色にからまる」まさにそんな様子で鶴は遥かシベリアから真っ青な空を渡ってやってくるのだ。『コイツァンの猫』(2009)所収。(三宅やよい)




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