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January 0312016

 初山河雲になりたき兎かな

                           原田宏子

春のファンタジーです。澄み切った青空の中、冠雪した山の方から河が流れています。その広大な遠景をみつめる一羽の兎は、雲になる夢を見ています。「わたしの白くてふわふわの毛は、あの白くてふわふわの雲とそっくりだ」「わたしは飛び跳ねることが得意だから、いつかきっと空高く舞い上がることができるだろう」。そんな兎のけなげな夢です。しかし、リアリストは頭ごなしに否定します。「どんなに色が白くても、どんなに毛がふわふわしていても、どんなに跳躍が得意だろうと兎は雲にはなれないよ」。けれども私は思うのです。正月の三が日くらいは、こんな夢を見ていていいのではないかと。新春の兎なら、新春らしく浮世離れして、その跳躍が雲に届くこ とを夢見て いていいのではないかと。ちょっと浮かれてうわついて、雲になりたい兎でいていいのではないかと思うのです。『雲になりたき兎』(2005)所収。(小笠原高志)




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