〔休憩 15分〕
ソフィア・グバイドゥーリナ 1931年生まれ
タタール人の血を引く女性作曲家。シュニトケ、カンチェリ、ベルトなどと並ぶ、旧ソ連出身で現在世界的に活躍している作曲家の一人。「西洋音楽史に初めて現れた本格的な女性作曲家」とも言われる。西洋音楽と東洋的思想を融合し、最前衛であると同時に深い精神性を保ち持ったその特異な作風は、現在、世界中で現代音楽の愛好家たちに熱烈に支持されている。
1931年に旧ソ連タタール共和国チストポル生まれ。父はタタール人の技師、母はロシア人の教師。カザン音楽院およびモスクワ音楽院に学び、1960年代から作曲家として目ざましい活動をするようになる。 1980年代には特にギドン・クレメルの支援のおかげでグバイドゥーリナの作品が欧米で広く演奏されるようになり、彼女の名声は一躍国際的に高まる。1992年ドイツに移住、現在ハンブルク郊外に在住。
ローマ国際音楽コンクール優勝(1974)、モナコ賞(1987)、クーセヴィツキー国際レコード賞(1991)、ハイデルベルク芸術家賞(1991)、ロシア国家賞(1992)など、国際的な賞の受賞は枚挙に暇がないほど。作品のCDも数えきれないほど出ている。
ヴィクトル・ススリン 1942年生まれ
旧ソ連出身の作曲家。グネーシン音楽院卒。「アストレイヤ」のオリジナル・メンバー。モスクワ音楽院で管弦楽法を教えるが、1981年ドイツに亡命。ゲリンガス録音の「チェロと打楽器のためのソナタ」(シュヴァン・レーベル発売「現代ロシア室内楽集」に収録)は特に評判を呼んだ。
アレクサンドル・ススリン 1961年生まれ
モスクワ生まれ、作曲家ヴィクトル・ススリンの長男。ヴァイオリンをゲルトーヴィチ教授に学ぶ。 1981年家族とともにドイツに移住、その後ロックに傾倒し、さらにインプロヴィゼイションの分野に深く関わっていく。 1989年以降ベーシストとして活躍。
「アストレイヤ」 1975年にソフィア・グバイドゥーリナ、ヴィクトル・ススリン、ヴャチェスラフ・アルチョ−モフの3名によって結成された即興演奏のアンサンブル。演奏には、ロシア、コーカサス、中央アジア、東アジアなどの珍しい民族楽器と儀礼用楽器を用いてきた。しばらくの中断の後、グバイドゥーリナとススリンは「アストレイヤ」を復活し、1993年には来日公演を行い、日本の聴衆に強烈な印象を残した。 1995年にはギドン・クレメルのクレメラータ・ムジカに参加。なお「アストレーヤ」(Astraea)とは、ギリシャ神話のゼウスとテミスの娘で、正義の女神。
アレクサンドル・ソクーロフ 1951年生まれ
映画監督。シベリアに生まれ、モスクワの全ソ国立映画大学に学ぶ。同大学の卒業作品『孤独な声』からしてすでに、当時のソ連の社会主義的な美的基準を大きく逸脱する極めて異色の作品であり、この映画を高く評価して四面楚歌の状況の中のソクーロフを救ったのがタルコフスキーだった。以後、体制の崩壊や社会的激変にまったく左右されることなく、着々と自分本来の映像世界を追求してきた。いまやタルコフスキー、パラジャーノフなき後のロシア映画界の最高峰の一人。前人未踏の映像世界を記録映画と劇映画の両分野で切り開きつつある。作品は『孤独な声』『痛ましき無関心』『日々は静かに発酵し』『ストーン』『セコンド・サークル』『静かな頁』『ロシアン・エレジー』『精神の声』『マザー・サン』など30本を越え、その多くが日本でも公開され、映画ファンの熱烈な支持を受けている。 1992年日本で蓮實重彦氏(現東京大学総長)の監修によって行われた「レンフィルム祭」の際に来日した他、何度にもわたって来日。大の日本びいきでもあり、日本の芸術家や文化人の間にも知己が多い。日本を舞台とした作品に『オリエンタル・エレジー』(NHKテレビで放映)、『オリエンタル・ノスタルジー』がある。
日本語に訳されたソクーロフの著作や対談としては、『ソクーロフ』(西周成訳、パンドラ、1996)、『ソクーロフとの対話』(前田英樹との対話、児島宏子訳、河出書房新社、1996)、『チェーホフが蘇える』(児島宏子訳、書肆山田、1997)があり、沼野充義編『ユートピアヘの手紙――世界文学からの20の声』(河出書房新社、1997)にもソクーロフのエッセイが収録されている。また『ユリイカ』(青土社)も臨時増刊としてソクーロフ特集号を出した(1996年)。ソクーロフの映画作品のいくつかは、ヴィデオで販売されている(シリーズ「アレクサンドル・ソクーロフの世界」、発売・ダゲレオ出版)。
中沢新一 1950年生まれ
宗教学者、中央大学教授。南西諸島の仮面祭祀の研究、インド・ネパールのラマ僧のもとでのゾクチェン密教の修行などを経て、民俗学、人類学、芸術・文化の様々な側面について幅広く執筆活動を続け、現在、日本の現代思想を名実ともリードする存在の一人。
著書は、『チベットのモーツァルト』(せりか書房、1983)、『雪片曲線論』(青土社、1985)『野ウサギの走り』(思潮社、1986)『イコノソフィア─―聖画十講』(河出書房新社、1986)『虹の理論』(新潮社、1987)『悪党的思考』(平凡社、1988)、『蜜の流れる博士』(せりか書房、1989)『バルセロナ──秘数3』(中央公論社、1990)『森のバロック』(せりか書房、1995)『ポケットの中の野性』(岩波書店、1997)など多数。
ロシア・東欧の思想や芸術にも造詣が深く、こちらの方面の著作としてば゛『東方的』(せりか書房、1991)や『始まりのレーニン』(岩波書店、1994)などが特に重要。
たなかあきみつ 1948年生まれ
詩人、翻訳家。最先端の現代ロシア詩に通じ、アイギをはじめ、ジダーノフ、パールシチコフ、クーチク、ダニーエン、ドラゴモシチェンコ、ビリュコーフなど、ロシア現代詩を翻訳・紹介してきた。自らの詩集としては、『声の唸』『光の唇』があり、モスクワ、サラトフ、タシケントなどの新聞や雑誌に作品が訳載されている。『アイギ詩集』(書肆山田、1997年)は、アイギとも通じ合うような詩的強度を持った詩人による訳業として高く評価されている。現代ロシア詩のアンソロジーを準備中。
亀山郁夫 1949年生まれ
ロシア文学者、東京外国語大学教授。ロシア・アヴァンギャルド期の文学や芸術を専門とする。NHKテレビロシア語会話の講師としても知られる。著書『蘇るフレーブニコフ』(晶文社、1989)『終末と革命のロシア・ルネッサンス』(岩波書店、1993)『ロシア・アヴァンギャルドJ(岩波新書、1996)。訳書にボーレフ『スターリンという神話』(岩波書店、1997)、ヘーントワ,『驚くべきショスタコーヴィチ』(筑摩書房、1997)、カーリンスキー『知られざるツヴェターエヴァ』(晶文社、1993)など。
沼野充義 1954年生まれ
ロシア・東欧文学者、文芸評論家、東京大学助教授。主な著書に、『永遠の一駅手前──現代ロシア文学案内』(作品社、1989)、『夢に見られて』(作品社、1990)、『スラヴの真空』(自由国民社、1993)、『NHK気軽に学ぶロシア語』(日本放送出版協会、1993)、『モスクワ─ペテルブルグ縦横記』(岩波書店、1995)、『屋根の上のバイリンガル』(白水社、1997)など。その他、現代ロシア・ポーランド文学の翻訳がある。現在、読売新聞紙上で文芸季評を連載中。