July 231996
夏痩せて釘散らしたる中にをり
能村登四郎
自然をうたう俳人が多いなか、登四郎は人間を数多く詠んできた。七十代の作者は、ちょっとしたはずみで手にした釘箱をひっくりかえしてしまい、呆然としている。若いころであればそんな自分に腹も立つが、いまはおのれの失策を老いの必然として自認する心境にある。誰にも訪れる老い。しかし、その自覚のきっかけはさまざまだ。だから、人間は面白いのだし、一筋縄ではいかないのである。『寒九』所収。(清水哲男)
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