January 1912002

 天仰ぐ撃たれし兵も冬の木も

                           野中亮介

語は「冬の木(冬木)」。むろん常緑樹もあるけれど、この季語には葉を落とした寒そうな木のほうが似つかわしい。木を人間に見立てることは昔からよく行われており、絵本などではすっかりお馴染みだ。木も人も単独に細長く立ち、枝が手に通じるので、連想が生まれやすいのである。そういう目で意識して木を眺めてみると、とくに枯れ木は輪郭がはっきりしているから、すぐにいろいろな人の形に見えてくる。作者の場合は「撃たれし兵」に見えたわけだが、見えた背景には、現今の緊迫した世界情勢があるだろう。そしてこのときに、作者もまた「冬の木」とともに、天を仰いでいることを見落としてはなるまい。寒々とした木を見上げながら、長嘆息している様子が目に浮かぶ。ところで、この「撃たれし兵」への連想は、十中八九間違いないと思うが、ロバート・キャパの有名な戦場写真と重なっている。スペイン動乱の戦線で撮影し「ライフ」に掲載された「敵弾に倒れる義勇兵」だ。ロー・アングルからの撮影ということもあるが、撃たれた瞬間の兵は両手をひろげ天を仰いでいる。手元に写真がないので思い出しながらの印象では、あの義勇兵はたしかに細身で枯れ木のようでもあった。六十年以上も昔の写真が、いまこうして私によみがえるとは、それこそ長嘆息ものではないか。ちなみに、作者は四十代。もとより戦場の体験はない。「俳句研究」(2002年2月号)所載。(清水哲男)




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