September 2292002

 空に柚子照りて子と待つ日曜日

                           櫛原希伊子

語は「柚子(ゆず)」で秋。快晴。抜けるような青空に、柚子の実が照り映えている。「日曜日になったらね」と、作者は子供と出かける約束をしている。遊園地だろうか。約束の日曜日も、こんなに見事な上天気でありますように……。庭で洗濯物を干しながら、学校に行っている子供のことをふっと思いやっている。たとえば、そんな情景だ。大人にとっては、ことさらに特別な約束というのではないけれど、子供にしてみれば、大きな約束である。学校にいても、ときどき思い出しては胸がふくらむ。「はやく、日曜日にならないかなあ」。作者は、というより人の子の親ならば誰でも、そうした子供の期待感の大きさをよく知っているから、「子が待つ」ではなくて「子と待つ」の心境となる。さて、その待望の日曜日がやってきた。母子は約束どおりに、上天気のもと、機嫌よく出かけられたのだろうか。私などは、何度も仕事とのひっかかりで出かけられないことがあったので、気にかかる。作者も自註に、約束が果たせないこともあって、「また今度ね」と言ったと書いている。がっかりして涙ぐんだ子供の顔が、目に浮かぶ。よく晴れていれば、がっかりの度合いも一入だろう。掲句は言外に、何かの都合で約束が反古になるかもしれぬ、いくばくかの不安を含んでいるのではあるまいか。そう読むと、ますます空に照る柚子の輝きが目に沁みてくる。『櫛原希伊子集』(2000・俳人協会)所収。(清水哲男)




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