April 2442003

 囀りや良寛の寺手鞠売る

                           山田春生

敷市玉島にある円通寺での句だと、作者の弁にあった(「俳句」2002年10月号)。若き日の良寛が修業をした寺として知られる。近くの茶店では五色の糸でかがった美しい「手鞠(てまり)」が売っていて、折りからの鳥たちの「囀(さえず)り」と見事に明るく調和している。旅の春を満喫している句だ。良寛は子供たちと遊ぶために、いつも手鞠とおはじきを持っていたと伝えられてはいる。が、それは越後に戻ってからのことで、円通寺で鞠つきなどはしなかったろう。だから、ここの茶店で手鞠を売るのも変な話なのだが、ま、これ以上は言うだけヤボか。さて、幕が上がると、舞台ではひとり良寛が竹箒でそこらへんを掃いている。そこへ四、五人の女の子がばらばらっと登場して「良寛さん、遊ぼうよ」と口々に言う。と、すぐに箒の手を止めた良寛が「よしよし」と言いながら袂から手鞠を取りだした……。その良寛は小学四年生の私であり、女の子は同級生だった。懐しくも恥ずかしい学芸会の一齣だ。忘れたけれど、五色の手鞠などあるはずもないから、取りだしたのはゴムマリだったのだろう。むろん良寛の何たるかを知るはずもなく、先生の言うとおりに演じただけで、もう全体のストーリーも覚えていない。放課後に残されての練習のおかげで、上手くなったのはマリつきくらいだ。ところで、実は明日、その良寛の故郷を余白句会の仲間と訪ねることになっている。かつての子供良寛の目に、何が見えるのだろうか。楽しみだ。(清水哲男)




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