December 012003
古書街に肩叩かるる歳の暮
皆川盤水
十二月に入った。毎年感じることだが、この一ヵ月は飛ぶように過ぎていく。まさに「あれよあれよ」が実感だ。そう言ってはナンだけれど、この多忙な月の「古書」店は、さして商売にならないのではあるまいか。ゆっくりとウィンドウや棚を見て本を選ぶ時間的な余裕など、たいていの人にはないからである。句の「古書街」は、おそらく東京・神田だろう。あのあたりにはオフィスもたくさんあるので、年末でも人通りは普段とあまり変わらないかもしれない。でも、古書を求めて歩く人は少ないはずだ。そんな街を、作者は明らかに本を探しながらゆっくりと歩いている。めぼしい店の前で立ち止まりウィンドウを眺めているときに、後ろからぽんと肩を叩かれた。振りむくと、知った顔が微笑している。この忙しいのに、お前、こんなところで何やってるんだ。そんな顔つきである。だが、どうやら彼も同じように本を求めてやってきたらしい。一瞬でそうわかったときに、お互いの間に生まれる一種の「共犯者」意識のような感情。この親密感は、やはり「歳の暮」に特有なものである。私は若い頃に、大晦日には映画を見に行くと決めていた。正月作品を、ガラ空きの映画館で見られたからだ。もちろん私も他の客からそう思われていたのだろうが、大晦日に映画を見る人々は、よほどヒマを持て余しているか、家にいられないだとか何かの事情がある人たちに違いない。そういう時空間では、お互いに見知らぬ同士ながら、なんとなく親密感が漂っているような雰囲気があったものだ。ましてや掲句の場合には知りあい同士なのだから、その密度は濃かっただろう。きっと、そこらで一杯というくらいの話にはなったはずである。『寒靄』(1993)所収。(清水哲男)
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