April 3042004

 妻ふくれふくれゴールデンウィーク過ぐ

                           草間時彦

くれている理由は、夫婦で(あるいは家族で)どこにも出かけないでいるからだろう。この時期、新聞やテレビを見ても、行楽地で楽しそうにしている人たちの様子が写っている。みんなあんなに楽しんでいるのにと思うと、出かけない我が身がみじめに思えてきて、ついついふくれっ面になってしまう。作者の事情は知らないが、せっかくの連休を家でゆっくり過ごしたいと思ったのかもしれないし、手元不如意だったのかもしれない。いずれにしても世間並みのことを妻にしてやれない負い目のようなものはあるから、妻の不機嫌が余計に目立つのだ。こんなことなら、無理してでも出かけておけばよかった……。なんとも愉快ではない忸怩たる思いのうちに、ゴールデンウィークが過ぎていったというのである。思い当たる読者もおられるだろう。戦後経済の高度成長とともに、連休と旅が結びついてきて、連休前には「どこにお出かけですか」が挨拶代わりまでになってゆく。だから、ニッポンのお父さんたちは大変なことになったのだった。仕事からは解放されても、家族サービスという名の労働が待ち受けるようになったからだ。バブル崩壊後には少しはこの風潮にも翳りが出てきたが、しかし依然としてどこかに出かける人は少なくない。海外へは無理でも、近隣への小旅行は可能だというわけか。そんな人たちで、今年も行楽地はにぎわっている。ということは、逆にどこかには「ふくれふくれ」ている妻たちも存在する理屈だ。そしてもちろんその蔭には、居心地悪く家の中で小さくなっている夫たちも……。やれやれ、である。『新歳時記・春』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)




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