May 2652004

 青田風チェンジのときも賑やかに

                           中田尚子

語は「青田(風)」で夏。一面の青田を渡ってくる風が心地よい。そんな運動場で行われている少年野球だ。両チームともに元気で、試合中にもよく声が出ているが、攻守交代時にもすこぶる賑やかである。周囲で応援している親や大人の緊張ぶりに比べて、少年たちのほうは伸び伸びと屈託がない。私が子供だったころの小学校の校庭を思い出す。清々しい句だ。ただ思い出してみると、少年たちが賑やかなのは、必ずしもリラックスしているときだけではなかった。緊張感が増してくると、逆にそれを和らげようとして、妙に饒舌になったりはしゃいでみたりする奴も出てくるのだ。接戦ともなれば、異常に騒々しく賑やかになったりする。ふだんは無口な奴が、奇声を発したりもする。やはり勝負事は、なかなかクールでいるわけにはいかないようだ。そしてたしかに、大声を出してみると、緊張感は多少とも薄らぐのである。いま住んでいる家の近くに立派なグラウンドがあって、ときたま少年野球の公式戦に出くわすことがある。先日見物していたら、チェンジでベンチに帰ってくる小学生たちに、しきりに檄を飛ばしている大人のコーチがいた。円陣を組ませては、何やら叫ばせている。遠くからでは何を言っているのかわからないので、ベンチ裏まで近づくと、コーチの指示がはっきり聞こえてきた。「いいか、これは英語だからお前らにはわからんだろうが、大事な言葉だぞ。さあ、元気な声でいってみよう。『ネバー・ネバー・サレンダーッ !』」。つづいて子供たちが唱和していたが、いまひとつ元気な声が出てこない。やっぱり意味不明の言語では、気合いが入らないのだろう。『主審の笛』(2003)所収。(清水哲男)




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