September 132004
これは何これは磯菊しづかな海
川崎展宏
季語は「磯菊(いそぎく)」で秋。野菊の一種なので「野菊」に分類。海岸の岩地や崖などに群生する。ただし、咲くのは関東南部から静岡県御前崎の海岸あたりまでというから、名前は何となく知っていても、実物を見たことが無い人のほうが多いだろう。作者もその一人だったようで、はじめて見る花の名前を「これは何」と土地の誰かに尋ねたのである。で、すぐ返ってきた答えが「これは磯菊」だった。そうか、これが話に聞いていた磯菊か……。あらためて見つめ直す作者の周辺には、秋の「しづかな海」がどこまでもひろがっている。「これは何これは磯菊」と歯切れの良い調子で出ているだけに、一見平凡な「しづかな海」という表現が生きてくる。それまでのやや性急に畳み掛けるような調子を、大きくゆったりと受け止める効果が生まれるからだろう。そして「しづかな海」はただ波の静けさだけを言うのではなく、夏の間のにぎわいが引いて行った雰囲気を含んでいる。私は読んだ途端に、流行したトワ・エ・モアの『誰もいない海』を思い出した。♪今はもう秋 誰もいない海……。この後につづく歌詞はいただけないけれど、内藤法美の曲はけだし名曲と言ってよい。『花の歳時記・秋』(2004・講談社)所載。(清水哲男)
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