誤解

倉田良成



神経質な午後 ジャンパーを着た中年男がひとり 花屋の露店の骨組みを解いている 小さく入り組んだ五叉路で めかくしをされた曲がり角の 真空を感じている電柱の向こうから 老犬を連れた老人が現れる 青いワゴン車が音もなくそこに消えてゆく 世界はいったん そこで 途絶えているのかもしれない 私たちのふかい誤解が 騙し絵のように冬の死角を支えている 冷気の下りた丘の上のどこかで落ちる 巨きな日没の音響 北風がはらむ白のなか むらがる打楽器よりもおびただしく 擦過する木の枝にうずめられた街 夕刊の文字の森がダンシネーンのように近づく ねむりから覚めれば みずべりには壮麗な寺院がある

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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