化石

辻仁成



ジュラ紀のアンモナイトの化石を貰      った フランスでとれたものだとそれをくれた人は言 った とれたなんて果物みたいだね、と僕は笑    った 化石は脱け殻ではない    イメージ 実体ではなく 創造のデザイン 石になることの 圧倒的な存在感  しかも硬質な不在 アンモナイトを見つめることは 喋り尽くした 後の 虚しさに似ている どうしたいのか分からない 何をいいたいのか分からない その 不在を   埋める方法が浮かばない  きっと 僕が死んでも こいつの不在はどこまでも続く  意味なんてないくせに 勿体ぶって 寡黙になりすましている ・ 無口は卑怯だ 黙っていることで語り尽くしたりする 深読みをさせ 幻想を抱かせる ・ どうせ僕はお喋りだ でもな化石よ 無口がかっこよかった時代は 70年代までだよ お前は今の時代には きっともてない ・ お見合いパブなんて知らないだろう 喋らないともてないんだぜ 頑に世界を守ろうとしても 通用しない時代 不運な時に掘り起こされたものだ ・ 化石の奇跡 ・ 本当は 喋りたいんじゃないのかい お前を見ていると そういう気がしてならない ジュラ紀から今日までの 一切合切。

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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