夏のさいごの巨きな空を背に
夕ぐれ、きみと駅で別れる
原色の旗や人びとのまなざしを
白く輝く星雲のようにやどしている夏の深みで
きみと私は眠った
言い残したたくさんのことばは
まるで希望のようにひそかな疼きをひめるけれど
桟橋の突端のようなところできみはなにかを叫び
それを聞き取るために私は秋の海を渡ってきみに近づく
そんなふうに世界がやさしく閉じられればいいのに
街路樹の立つ光の隙間に似た一角を公園にむかって歩く
時間の熟れる場所で私は音楽を組み立てる
あしたのちいさな約束を守ること
それが人びとのざわめきのなかで果たされること
きみと私を引き離す群衆を憎み*
私ときみを生きる歓びのなかにただよわす群衆をいとおしむ
明るく渦巻くすべての祭りの影像が
かけがえのないかなしみのように私のうちに鋭くよみがえる
青空の彼方までつづく
この東京という街で
ディキシーは鳴れ
大観覧車とともに
港からにぎやかな吹奏楽が離れてゆき
やがて真夜中の巨大な構造がせまるとき
受話器を置いてきみは長い電話をおしまいにする
(おやすみ、きみの目覚めに
かすかな鉤を引っ掛けておく)
*エディット・ピアフ「群衆」より
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