*
種が堅いから
人面が再生産される
泥土に残るクルミの一粒
もし死なずば
クルミが生え
そして
周りの虹や汚穢はわからない
蟻の周期
その季節は線形に近づき
行動は線に近づく
そんなのどかな花園
その
奥の底
吐き気のする虹や
きれいな汚穢を
見た眼球が
古井戸に
すーっと
落ちていく
*
人面に
鼻や目や口はない
面白いキャンバス
へのへのもへじを
描いてみる
白い
人面キャンバスに
葱をいっぱい
植えてみよう
*
坊主
いちめんの
坊主
袈裟を来た
緑の葱坊主
秋も来たねえ
動脈の鍵でも
開けてみようか
かちっ
血管から出た細長い虫が
雲のほうに伸びていった
*
裸
全面的に裸
もう毛しか生えてはいない
鏡の前で身悶えして
身悶えして
すっくと立って
敷布を首に巻き
真っ赤なシーツをひるがえし
ぼくは立派な渋谷マン
ぼーくは立派な渋谷マン
*
あれ
林檎
食っちゃった
皿に残るシード
そのシード
もし台所に残れば
腐った生ごみの間で芽を出し
しかし
芽も腐り
林檎はそこで終わり
でもシードの
霊は
鋏や包丁
霧吹きや
乾麺に
憑く
丸い霊が
居間にまで
飛んで
結局種だった
*
鼻や目や口の飛ぶ
花園
白い人面キャンバスだけが
茎の間に
看板のように
そこここに立ち
僕はもう知らない
顔を圧する虹が
津波の汚穢が
すでに
僕の範囲の外にあること
だけは
わかるのだが
僕が立ち
そして歩くことは
知っているのだが
帳簿をつけるように
そのひとつひとつの数を
書きとどめることしか
知らない
ちょうどいま小さな口が僕の掌に埋没した
|