ゆで卵

長尾高弘



きみをゆでたら きみは赤くなって 恥をしのんで 鍋の底にうずくまっている きみのしわはのびて つるつる きみのくぼみは ふんわり光を帯びて きみの目は 白目をむいている きみとぼくの関係は 浅くてからだぬき のものだったから ぼくはきみのことを 惜しいとは思わない でも ゆであがったきみのことを きれいだとは思う きみを火からおろして 腹を裂いたら ゆで卵がいくつも いくつもでてきた 明日から毎朝 一つずつそれを食べて ぼくは飢えをいやすだろう

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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