Booby Trap 通信  No. 5

禁忌と禁忌の侵犯に人間をみる
聖女たち――バタイユの遺稿から/著訳者・吉田裕/書肆山田/定価 2000円(本体1942円)

【目次】
●「聖ナル神」遺稿 ジョルジュ・バタイユ/吉田裕訳
「エロチシスムに関する逆説」の草稿
聖女
シャルロット・ダンジェルヴィル
●淫蕩と言語と――「聖ナル神」をめぐって―― 吉田裕
(書店でお買い求めください)
歴史の「中心」をめぐって――友人への9通の手紙/私家版(残部僅少)/無料
【関連資料】吉田裕『歴史の「中心」をめぐって』(非売品)は一九八九年から九一年までの、詩を書いている築山登美夫への手紙を中心に編まれている。八九年の春から一年間フランスにいて、ルーマニアのことなどが日本への情報とは違ったかたちで受けとめられたことなど、もちろん文学をやっている者が状況とどんなふうにかかわっていくか、という根底的な問題ももどかしく感じながらも書かれている。この本のもうひとつの中心はジュネットのセミネールで直接講義を受けた体験と、ジュネットの思想の解析である。ジュネットはタイトル、献辞、序言、あとがき、インタヴュー、自己解説、回想などの周辺のテキストをパラ・テキストという概念にまとめ、テキスト論を展開する。手紙の形式からいっても量的にも、ジュネットの考え方をめぐった随想というかたちであり、著者の関心はバタイユに移っていくところで手紙は終わっている。(中略)
 吉田の本を読んでいてもうひとつ感じたのは、西洋やその他の国の思想の異化ということが身近に自然になってきたということである。わが家にも昨年アメリカ人の少年が二カ月ほど、ごく自然に生活していった。ヘヴィメタルバンド・メガデスのマーティ・フリードマンのアルバム『憧憬』の〈Realm Of The Senses〉という曲の演歌のメロディラインの異化作用。日本の時間的な隔たりによる異化ならば寺山修司作高取英演出『盲人書簡』。(後略)(「週刊読書人」1993・3・15号〈さまざまな異化作用〉・清水鱗造)
(著者に直接注文してください。著者住所:〒168杉並区高井戸西2-7-29)
【近況】引っ越ししてようやく落ち着いてきた。バタイユについていくつかテーマが浮かんで、思いつくままに、ワープロに打ち込んでいる。そのひとつは吉本と重ね合わせること。30、40年代のバタイユのテーマは、神秘と性愛と戦争だと言えそうだが、これは自己幻想と対幻想と共同幻想のことではないのか。彼らは二人とも、これら三つのものが交差しあう地点を経験し、惹かれ続けたのではないか。自分のこれまで何を考えてきたかを検証する意味でも、この二人を比較してみる気持ちを持つ。

Pastiche/田中宏輔/花神社/定価2400円(送料込み)
いくら あなたをひきよせようとしても
あなたは 水面に浮かぶ果実のように
わたしのほうには ちっとも戻ってはこなかったわ
むしろ かたをすかして 遠く
さらに遠くへと あなたは はなれていった

もいだのは わたし
水面になげつけたのも わたしだけれど
(〈水面に浮かぶ果実のように〉)
【プロフィール】1961年、京都生まれ。現在、同志社国際高校数学科講師。『Pastiche』(1993.5刊)は処女詩集。「ポパイ」2.10号47ページに顔写真とインタビューが載っています。同性愛を織り込んだ詩も書く。
(著者に注文して下さい。著者住所:〒606 京都市左京区下鴨西本町36-1-2A号)
【近況】三ケ月ほど前に住居を替え、電話を替え、消息を絶っていたNから電話がありました。好きな子ができ、同棲していると言うのです。そして、そう言った後、涙声で「ごめんね」と繰り返しながら、「また電話してもいい?」とか、「また会ってくれる?」とか言うのです。ぼくには、Nの気持ちがさっぱり分かりませんでした。同棲している相手と別れた訳でもないのに、いまさらのように、ぼくのところに電話をかけてくるなんて……。愛されている人間というものが、どれほど残酷な振る舞いをするものか、ぼくは痛感することができました。

新刊!
『蚤の心臓』/関富士子/思潮社/定価2600円(書店でお買い求め下さい)

棚の下の暗がりをすばやく歩く者は
猿のような後ろ姿だが
首だけあおむけて
蜂をほおにとまらせたり
幹の蟻をこすり落としたり
蔓や葉は光の方へ伸びるが
房がながながと垂れるので
日暮らし膝でいざり歩く
下草に濡れてふるえながら
てのひらで房の重みをはかっている
房は熟して張りつめ
汁がその手にしたたるだけで発酵する
びしょぬれで飲みつづける毎日のあと
枯れ落ちようやく明るんだ棚の下で
酔いざめのくしゃみをする
〈時をめぐる冒険〉より〈葡萄畑〉
【著者紹介】1950年福島県生まれ。1977年、詩集『螺旋の周辺』監獄馬車刊。1991年『飼育記』あざみ書房刊。土井晩翠賞。詩誌「gui」同人。(住所〒351埼玉県朝霞市泉水2-7-34-101
【近況】ワープロに縛りつけられた一か月が過ぎて、さあ遊びに行こうと思ったら梅雨だ。かっぱを着て自転車を飛ばす毎日が始まる。

長尾高弘
【近況】300MBのHDDを買ってから2ヵ月、未だにコンピュータに接続していません。前回、ねじ回しを持ったときには、FDDを1つ壊してしまいました。こんな人間でも食って行けるのが、コンピュータ業界の良いところです。Panix BBSに以前書いたことと重複しますが、朝吹亮二『opus』の45〜53は、パソコン通信を題材にとった日本で最初の詩作品なのではないかと推測しています。日本でパソコン通信が始まったのが85年で、『opus』は86年までの作品ということですから、これはなかなかすごいんじゃないかと思っています。
【プロフィール】1960年4月6日生。(住所:〒223横浜市港北区東山田3-26-16)

沢孝子
【自己紹介】大和化している自己を捕らえ直さないかぎり、何ひとつ真実が見えてこないような気がしています。『空は海は月は』の詩集(私家版、500円)では、労働した街の手触りで、『プラスチックの木』の詩集(書肆山田、2060円)では、大和化の意識の裂け目を拡大鏡で覗いた、膨大なイメージ群で、今は、歴史の中へと悪戦苦闘していますが、やや自虐的なものから解放されて、少しは攻撃的になり楽しんで詩を書いている所があります。やはり自己満足の詩?
(住所:〒560豊中市東豊中町5-2-106-504山形方)

白蟻電車/清水鱗造/十一月舎/定価1500円(送料込み)
穢れを通して生きていることの意味を探るというのはかなり勇気の要ることだ。清水鱗造はいまそれを敢えてやろうとしている。――鈴木志郎康(帯文より)
蟻の文字がぎっしり詰まった丸まった新聞紙が
ボッと発火する
吉凶吉凶吉凶…と燃える
家系を満たす甘い雪崩…と燃えている
凌辱するものは味方でも撃て…と燃える
菊が硫酸に浮いている
声がただれてくる
逆円錐の渦(白眼)
渦(白眼)
渦(白眼)
渦(白眼)
渦(白眼)
百平方メートルの皮膚がいっせいに鳥肌立つ
(〈渦群〉より)
【近況】暑い夏で、楽しい気分も憂鬱な気分もある程度破壊されるようです。冷房した部屋で、向かっていくべきもの(挑戦していくべきものというような大袈裟なものではなく)がだんだん姿を現わしてくるような感じです。これも44歳という年齢に達したからかもしれません。犬が毎朝寝床まできて起こしてくれます。
(著者に注文して下さい。著者住所:〒154世田谷区弦巻4-6-18)

布村浩一詩集/自家版/定価1000円(送料込み)
90年代の喩の行方を鮮烈に告げる!
二つの ぼたん
鳥をつかって漁をする
魚売り
おちていく ふたつの
火花
花火は明るくて
泳がない
沈んでいく音楽にのせて
オルガンの音楽にのせて
オルガンのおちていく弾き手
だいじょうぶ
まだ
稲は食べられる
おちていく 二つの

祭りのなかの
合図のように
とおく
村の呪文の
なかに
いる
駆けていく距離の
小さな軽い足
とおざかっていく
船の上の 息を吐く
兄妹
(〈二つの ぼたん〉)
(著者に注文して下さい。著者住所:〒186 国立市西1-10-3 浜田方)

長編書き下ろし!
〈金の枝のあいだから〉/倉田良成詩/私家版/頒価2300円(送料共)
挿画・造本/三嶋典東

冬の透明な船着場が近づく
鬱蒼と火のからまる街に
示される尉の面の
無限にかさなりあってゆく明るみのはなびら
底光りする鏡から
むらがるユリカモメが抜け出して
部屋いっぱいに香り立つ
小松川の暗黒へ
きらめく夜の河へ
千年
金の屑を散り敷いてきた秋ごとに
ふりそそぐ恩寵の驟雨を狂気のように堪えてきた
末は
旅人の
肉眼
明るみのはなびらの
あふれるまぼろしのはなびらのなかで
               (パート15〈河明かり〉より)
*著者に直接注文のほか、渋谷ぽると・ぱろうると池袋ぽえむ・ぱろうるに置いています
【近況】私家版の新詩集の制作・配布・宣伝がひととおり終わってほっとしています。最寄りの駅に八尾の風の盆のことを載せたポスターが貼ってあるのを見て、矢も楯もなく行きたくなりました。ずいぶん前のことですが、テレビで風の盆を収録した番組があって、そのときの男や女の舞の手のあまりのうつくしさに鳥肌が立ったのを覚えています。それ以来、越中八尾は私にとって幻の土地となりました。そうたびたび行けるところではないので、ここはなにがなんでも休みを取って堪能してこようと決めています。

パソコン通信で「Booby Trap」の一部が読めます!
◎Panix BBS
・所在地 東京
・ホスト mmm
・電話番号 03-5430-7062
音楽、読書などの話題を中心とした草の根ネットです。現在50人の会員がいて、楽しいコミュニケーションをしています。guestでログインすれば入会手続きができます(入会無料、接続分の電話代がかかるのみです)。pmdさん、rapperさんが運営している世田谷区にあるBBSです。「Booby Trap」編集者や一部執筆者と電子メールの交換ができ、過去の作品の一部をボードで読むことができます。通信のやり方は編集者まで気軽にお尋ねください。(執筆者ID=gizmo[清水鱗造]、nyagao[長尾高弘]、SINKAN[園下勘治])

【バックナンバー】12、13号のみ残部あります。

【編集後記】消費の感覚がずれたり、リズムが乱れたりするのは情報媒体の変容の当社なのだろうか? B.T.でできることはまだまだある。

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
[No.14目次] [前頁(バタイユはニーチェをどう読んだか 7)]
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