今を超えないように

布村浩一



きみのなかにペニスを入れているとき ぼくは単純な男だった 単純な男になれてよかった ピカピカの停車場のそばの別れのあと いろんなことを自然に考える エスカレーターに一人でのぼって 待合室に行き 煙草をとりだし 吸って すわって 立ち上がって 歩き始める 木に話そう とか 弟に電話しよう とか すぐにも引っ越ししよう とか 20年ぶりにセックスをして やっぱりセックスは大きなものだと思ったよ あこがれたり はなれたりしないためにも セックスは必要だと思った 上に昇ることをやめて まっすぐに歩道を歩く 何が待っているだろう とにかく これからしばらくは きみがいなくなった部屋で ビールと パンとベーコン 水と 紅茶と トマト しばらくはきみがいなくなった部屋がさみしいが ビールとパンとベーコン 水と紅茶とトマト きみのいつも持っている体温はぼくをさみしがらせない ということを 木に話す

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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