花器の雪にしずむ

沢孝子



北の街に透きとおる 水酔いのくらしには 花器のような湖にみだれる衣の波襞が 雪に浮きしずみする それはどこからやってくるのだろう いつものぼりつめる茎の無智 離れない月夜の水の儀式が 裏返る葉の一枚一枚の記憶にながれて 今 思いだしている 急激な波のおこりを待つ習慣にひろがる 剣山の針のような歴史の波 葉裏の眼が語りだす 一枚の葉がながれつく 紫がなしの南の砂浜に 立ち上ってくる茎の 真の一系――安定してきた 花器の雪にしずむ衣の波襞の乱れ 水酔いのくらしへ 突きささる 飢えているウニ! あちらこちらでざわめく葉裏の眼が 急激な波のおこりを待つ 水の儀式の習慣で 月夜へながれ 祖先がえりする 突きささるウニの南の砂浜に住む 飢えの泉の充実があり その余韻にひたる 一枚の葉の満月の礼拝を凝視する 

北の庭の雪に浮きしずみする 虚構の峯をかぶとにする 青葉ぶしょうの 花のわざの別れの 四季に散る 花器のような湖にみだれる衣の波襞に よぎる寒色の花びら いつものぼりつめる木の無智の 一本一本の枝の記憶にながれて 孤独の月をひしと抱く 水の恋情の 枝先の眼が語る 切り落とす要領のような歴史の波に 透きとおる 水酔いのくらしのふるえは 泉なのだろうか 一本の枝に散る南の砂浜に 炎をしたがえる鉄が くちづけるかぶとの峯を裂く ずるずる垂れる雨の別れに 立ち上ってくる木の 真の一系――― もえひろがる暖色の花びら 無限の空の 古代の響き忘れない 異変がおこりつつある 花器の雪にしずむ衣の波襞の乱れに飢えているウニ! 孤独の月の水酔いのくらしに浸透する あちらこちらでおどる枝の 虚構の峯の裂け目 なんじゃくな根元の四季に狂う充実があり 古代に散る 雨にずるずる垂れる別れの 洗い骨の水の恋情 南の砂浜のウニにふるえて 花びらの飢えの古代が響いて その余韻にひたる一本の枝の ほほえむ月の世界を割る

(改稿)



Booby Trap No. 5



花器の雪にしずむ-城と洞の扉に炎がもえる-大和世に舞う-廃家のカマにある内紛の火種のイメージへ-茶壷のなかの風-陽の堀をのがれ暗の扉にかくれるあなた-浮世の船にゆれて-網膜の光を九九で解き 眼孔の闇をゼロの地点にさそう-仮面にはらむ夏-梅の木にひざまずくとケンムンの木にこの葉落ち-庭園のイメージにながれる溝川とくらい洞穴

城と洞の扉に炎がもえる

沢孝子



城の扉をひらいて面接する
ひざまずく封筒が ケラケラ笑う
堀からはとぎすまされた武の掛け声がひびいて
伝統という流れにゆがんでいく胸の文字 毒蛇(ハブ)の舌なめずりで
不可解な位の椅子へ 鎧となる言葉の形があるから 驚いている封筒 胸中の洞はとじて
美しかった あの空の死の謎を解きたい 城の周りをうろうろしてやっと辿りついた面接なのだ
なぜ受けごたえは呪文になるのか 法螺吹きの情念の舌 その動きにある卑屈さが恥ずかしい
奥のカーテンを気にする あのひびきは 機械なのか 馬のひづめなのか 屍のうめきなのか
了解できないで さまざまな動きにはらはらするだけ 城のなかへ入る資格なしという答えが返ってくる
それは毒蛇(ハブ)のうねりは館からはみだす恐れがあり うろこのエロチシズムはカーテンの揺れにある襞にはそぐわない
そのとき天に梅の花びらひらいて 鉄皇ぶしょうの恋にもえる便箋の文字のしたたりにふるいたつ
戦争で詰め込んだたくさんの頭脳の星 突っ込んできたのは鋭い梅の木の先 珊瑚の割れ目に花びらの傷口が浮く
戦後の城の扉は軽くなった 喜んで機械の街の奥へ 梅の屋敷に入れば椅子の人狩り 頭脳を打つ鎧は痛い その恐怖があり
今 胸ひらいて沖縄戦での 毒蛇(ハブ)の踊りを館で披露したいと はなやかな舞台で呪文をとなえているけれど
やはり襲ってくる とぎすまされた武の掛け声が 伝統という堀の流れに 傷口のひびきが……
不可解な天を梅の木がひらく 鉄皇ぶしょうの恋の優しさに 鎧の貌にある刀の先がだぶり 破れている胸中の傷口 ゆがむ文字の花びら
管理された城の扉をひらいて面接にいく老齢があり 階段をのぼりつめている執念には
ケラケラ笑う封筒の変身してきた月日があり むなしい恋の奥にある梅の屋敷の人狩りの恐怖へ
たくさんの星の頭脳がもえている ひざまずく扉に炎の花びら

洞の扉をとじて逃避していた
こわれた風呂敷が ナワナワ這う
溝からはそぎおとしてくる華の水の輪がせまって
夜の器の真軸にみだれる頭の言葉 毒蛇(ハブ)の強がる牙で
迷路のような売る格子へ 浮き世にある文字の線にみせられて 後ろ暗くなる風呂敷 頭脳の扉をひらいて
すくいだった あの街のむなしい恋に近づきたい 洞の闇にあるねばねばをすくいあげ 自由のためにいそいだ逃避なのだ
それが性のうねりになり 南の踊りへとつながっていく この牙の尖りを確かめたのが嬉しい
岩底のシイーツに濡れていた あのしたたりは 楽器なのか 烏のなきごえなのか 交美のよろこびなのか
のめり込めないという淵には 他界の儀式に参加できない根元の相違があって苦悩はつづく
それは毒蛇(ハブ)のうずまきでは雪景色の刀の血に染まれない そのグロテスクさはあまりにも陽気すぎる 祖霊にある明るさ
そのとき砂に珊瑚の花びらとじて 黍ユタがなしの死者が語りだしている そのふるえる樽の家人の言葉のひびきへとしずみこむ
古代を覗いた澄みわたる胸中の月 離別の闇がかたる祖霊の珊瑚に海の瞳 梅の亀裂の花びらに悪霊がたつ
現代の洞の扉は壊れ 幸せつかんだ座も 岩底となる珊瑚の夜に沈んでいく滅び 胸中にさまよう浮き世の激流 その怒りがあり
今 頭をとじて薩摩の支配へ毒蛇(ハブ)の交尾が笑う 家人の人身売買という極限の暮らしを思いつつ
やはり格子はあるのだ そぎおとしてくる華の切り口 藩という溝深くからの悪霊のしたたりが……
無意識の砂に珊瑚の海がとじている 黍ユタがなしの死者の狂いは 浮き世の恋の狂暴と重なり 尖りだすだす脳裏の激流 みだれる言葉の花びら
消滅する洞の扉をとじて逃避する娘が走り 階段をおりつづけている孤独には
ナワナワと這う風呂敷の夜這いの抜け道があり 淋しい死者と語る岩底の珊瑚の夜にある滅びの怒りへ
こわれた扉の炎の花びら 澄みわたる月の胸中にもえている


Booby Trap No. 11



花器の雪にしずむ-城と洞の扉に炎がもえる-大和世に舞う-廃家のカマにある内紛の火種のイメージへ-茶壷のなかの風-陽の堀をのがれ暗の扉にかくれるあなた-浮世の船にゆれて-網膜の光を九九で解き 眼孔の闇をゼロの地点にさそう-仮面にはらむ夏-梅の木にひざまずくとケンムンの木にこの葉落ち-庭園のイメージにながれる溝川とくらい洞穴

大和世に舞う

沢孝子



食卓に頬杖ついて 湧き水の方言に沈んでいく 茶の間に再現されてくる異質な歴史の 暮らしにあるさびの形には馴染めない 習慣からの響き 器の言葉が出会う 杯盃にとぐろまく彼方の浜の古代の波立ちがあり 反大和となる優しい血縁の部落 潮風のリズムで歌って 万葉の恋文を焼く 大和化に消える愛の 灰にこもる図太い裸足が 蛇味線を弾いて渡り歩いた 城から城と覗いた亀裂の深さがあり 道のヒレがなしが詠んでいた句にもある 封じてきた月日の石の門 別れの儀式貼りつける衣の 武の作法にとまどうドレイの愛に抗いがあり 出口のない大きな月の夜の狂い 島にもえる炎の 荒れた髪をすく 大きな月の厚い本のページめくり 膨大になっていく砂糖黍 憧れの梅の木の引き潮にある 絞られた大和化の言葉は脆い 暮らしの器に壊れた異質な流れ 共通の差別の釜のどろどろに 倒れる黍の上昇思考を照らす 川の堀の滅びの屋根の満月 湯のヒダそうりょが詠んでいた句にもある 苦界のわびの飢えの方向の 天下分け目の時代 国の別れの骨を洗う儀式で 祖先返りして 大和世に舞う 海の悲しみの優しい血縁 花の作法へすりよるドレイの愛は捨てる 食卓に頬杖つく 出口のない方言のリズム 裸足の実感で 茶の間が出会う 反大和の島の満ち潮の 古代の炎をつつみこむ 万葉の恋文焼きてこもれ灰 天下分け目の大和世に舞う 裸足の実感で押す異質な歴史の掌 押されるわびの器の暮らしの掌 平伏する島の心が 大胆に毒蛇(ハブ)の柔皮ひらく 毒含む洞の言葉の影にまわる早さ お手上げの古代の湧き水に沈む茶の間は 掟の憎しみが倍加する反大和の衣を脱いで 食卓に頬杖つく ゴザに乱れる月の祈りで 万葉の恋文を焼く はっと射止める 夜這いの浜に到来してきた 神の足音 灰にこもる 島の心の潮風の柔らかさ 一瞬にして訪れる大和化の言葉の脆さに牙 さっと隠してしまう 道のヒレがなしが詠んでいた句にもある 出口のない部落の歌 方言のリズムが 呪文の踊りで祖先返りして 芸の作法をまねるドレイの海は抜ける 杯盃がかこいこむ ぶさいくな石垣の伝説 優しい血縁の暮らしの波立ちにくゆらくゆら ぶさいくな石垣の伝説 ガジュマルの木に神の衣がかかり 夢の島の歌と踊りの古代に 天女舞う空の涙の便り 食卓に頬杖つく 海の心は裂けて 梅の木に憧れた大和化 引き潮の茶の間は 朝の掟の罪に吊り下がり 海鳴りに痛んだ反大和 満ち潮の杯盃は 夜の上昇思考の黍の倒れにたじろぎ 異質な差別の共通の言葉が どろどろの釜に溶けて 古代の海の裂け目に透きとおる 湯のヒダそうりょが詠んでいた句にもある 苦界のさびの庭の波立ちに 暮らしの器から逃げた 天下分け目の時代 大和世に舞う方言のリズムが 滅びの浜へ旅立ち 春夏秋冬の四季の変化に荒れた 茶の作法をうのみにしたドレイの海は探る 象徴となる満月が照らす 洗い骨の儀式は出口なく 優しい血縁の部落へ旅をする 毒蛇(ハブ)の伝説に酔いしれて出会う 石垣にもえる炎の 国の別れの暗壕に死す

(改稿)



Booby Trap No. 12



花器の雪にしずむ-城と洞の扉に炎がもえる-大和世に舞う-廃家のカマにある内紛の火種のイメージへ-茶壷のなかの風-陽の堀をのがれ暗の扉にかくれるあなた-浮世の船にゆれて-網膜の光を九九で解き 眼孔の闇をゼロの地点にさそう-仮面にはらむ夏-梅の木にひざまずくとケンムンの木にこの葉落ち-庭園のイメージにながれる溝川とくらい洞穴

廃家のカマにある内紛の火種のイメージへ

沢孝子



尋ねたところは淫乱と武乱のイメージが格闘する廃家だ 黒糖づくりのカマの液 陶器づくりのカマの土 それぞれの歴史の秘密の扉を押して ずーっと気になりつづけている 島の液のながれ 森の土のもりあがり それらが交わる関係の 内なる無知の問答が始まる それは古代から保ちつづけられてきた 窪みであり 重みであり なんらかの矯正によってしか 真実は明らかにされないだろう 月の便りへは裏切ってきたから 梅の便りには服従してきたから 霊液となった古体が冴えてくるカマよ 偽土となった肉体が狂ってくるカマよ 緊迫してくる民族の内紛の 火種となる要員の炎に照らされる とうきづくりでないさとうづくりを どろどろした土ではないどろどろした液を 竹ヤブに隠れていたい 宝となった黒糖の時代の岩屋で 裏切りつづけた 内なる淫乱のイメージがわきたつ 冷たい風が吹き抜けてきて 月の羽衣の自由の歌の悲しさをかわしていると 近代に閉じ込められていった あの古代の呪文が そよそよと空に舞い上がって 今 何を語りだそうとしているのだろう 宝の島がなしがたべていたピーナツがなつかしい 月の便りに冴えてきて 内なる黒糖づくりのカマがもえる 大和化の淫乱の胸をひらくと どろどろの霊液に 滲んできた物語があり 竹ヤブに吹いてきた冷たい風の 岩屋に隠れていたい 今も泣きつづけて こだわっていたい物語なのだ さとうづくりでないとうきびづくりを どろどろしたろ液ではないどろどろした土を 屋敷へは訪れたい 壷がある陶器の時代の居間で 服従しつづけた内なる石頭の武乱のイメージがさまよう 複雑な空を抱えている 梅が立つ器の形式にある暮らしの厳しさをくぐりぬけると 現代に閉じ込められていた あの伝統の四季が ふれている座の風のつぶてに受けて 今 何を問いかけようとしているのだろう 壷の森そうりょがたべていたイチゴにふるえる 梅の便りに狂った 内なる陶器づくりのカマがひえる 反大和の武乱の心をとじると どろどろの偽土に 透通ってきた古典があり 屋敷で抱えていた複雑な空の 居間を訪れたい 今も気負いつづけて のめりこみたい古典なのだ 尋ねたところは淫乱と武乱のイメージが格闘する廃家だ 内なる秘密の扉をおして 月の羽衣の自由の歌へ 梅が立つ器の形式にある暮らしへ ずーっと気になっている無知なるカマへの問答が始まる 裏切ってきたなつかしいピーナツをたべ 服従してきたふるえるイチゴをたべて もえてくるカマの大和化の胸で 窪みとなっている竹ヤブの時代をひらいてみたい ひえてくるカマの反大和の心で 重みとなっている屋敷の時代をとじてみたい なんらかの矯正によってしか 真実は明らかにされないだろう 隠れていた岩屋で 語りだしてきた古代の呪文があり 訪れていった居間で 問いかけていた伝統の四季があり 緊迫してくる民族内紛の 火種となる要員の炎に照らされる こだわりつづけている物語の淫乱のイメージには どろどろの島の液のながれ さとうづくりの悲しい歌で! のめりこみつづけている古典の武乱のイメージには どろどろの森の土のもりあがり とうきづくりの厳しい暮らしで!

(改稿)



Booby Trap No. 13



花器の雪にしずむ-城と洞の扉に炎がもえる-大和世に舞う-廃家のカマにある内紛の火種のイメージへ-茶壷のなかの風-陽の堀をのがれ暗の扉にかくれるあなた-浮世の船にゆれて-網膜の光を九九で解き 眼孔の闇をゼロの地点にさそう-仮面にはらむ夏-梅の木にひざまずくとケンムンの木にこの葉落ち-庭園のイメージにながれる溝川とくらい洞穴

茶壷のなかの風

沢孝子



いつも南からやってくる 蛇皮線には 敷居に立つ つぶやきがあり 根となった 足となった 露地の やわらかい 夢の木 茶の葉つむ言葉の交わりに ひかった枝葉の他者の眼 そのざわめきの一瞬の風をそらすとき 猿のおどる足 藻のゆれる根 あわててかくす 上昇した夢の木の時代の 赤い水 茶の葉つむ言葉の交わりに わいて 狂う土びん はげしい湯の感情の 敷居のつぶやきこぼれ 蛇皮線を弾く 南の愛があり 一揆をおもって ゆれる藻の根かきわけ おどる猿の足のかたりで 壷の街をひらく 不浄となった愛のながれの 南からの引き潮 古代からの虹のかけ橋で 吊り木がなしが うたった島歌は 夢の木のシンボルをしずめるため 茶壷のなかの風にふれるだろう きれた海の孤島 ちぎれた空の地平線 幼い日の 紋章のかたちに いたんだ波の縁側 つぶやく雲の愛がある きれた藻の海 ちぎれた猿の空 幼いまなざしで 上昇した 夢の木の時代 茶の葉つむ言葉の交わりに 都市のさびにそまった夕ぐれがある 褐色の鉄びんがもえてきて したっていた一揆 壷の街の空の 不浄のながれとなった愛の龍巻がある はてしない古代の 藻の海がきれた時限へ ながれさった蛇皮線の 猿の空がちぎれた驟雨へ 縁側のつぶやきは ぬれなかったか 古代からの虹のかけ橋で 散る木ぶしょうが ラブレターを差し入れてくれたとき こわれた茶壷のなかの 風のシンボルが まなことなってせまってきた 一瞬にして こわれた岩 無の海に かくした爪 荒涼とした 風景の波立ちに 裸景をさらした 途中下車の愛がある こわれた藻の岩 かくした猿の爪 その手ざわりで 忘れて行った道に のぼってくる満月 にぎらなかったか うたう車窓のながれ 土びんの褐色で 一揆の伝説をくぐりぬける 壷の街の風 不浄のながれとなった愛の海道に かたりかけてきた 一本の夢の木の 茶の葉つむ言葉の交わりに 古代の蛇皮線をひけ こわれた藻の岩で 駅駅の扉をひらけ  かくした猿の爪で ひび割れる車輪のこころの 途中下車の座にすわる にげていく泉の 虹のむいしきに 顔をあらって ふりむいてくる乙女 格闘! 壷の街の敷居で 吊り木がなしは 赤子のように だきすくめられてしまった そんなはずはない 壷の空の縁側で 散る木ぶしょうが 大きくなって かぶさってきた そんなはずはない 壷の風の駅駅に ふりむいてくる乙女 どれい地獄が 立ちはだかってきた そんなはずはない くたくたになった蛇皮線の街 敷居のつぶやきを 聞かなかったか おどる猿の足 ゆれる藻の根 上昇した 夢の木の時代の 不浄のながれとなった愛の引き潮がある ねむりつづける紋章のかたちの空 縁側の驟雨に ぬれなかったか ちぎれる猿の空 きれる藻の海 上昇した 夢の木の時代の 不浄のながれとなった愛の龍巻がある 茶壷のなかの 風のシンボルにふるえる 虹の泉のかけ橋に あたりいちめん 駅駅の一揆によみがえる かくれる猿の爪 こわれる藻の岩 不浄のながれとなった愛の海道をくぐる どれい地獄の島歌に 花のにおいがみちてきた

(改稿)



Booby Trap No. 14



花器の雪にしずむ-城と洞の扉に炎がもえる-大和世に舞う-廃家のカマにある内紛の火種のイメージへ-茶壷のなかの風-陽の堀をのがれ暗の扉にかくれるあなた-浮世の船にゆれて-網膜の光を九九で解き 眼孔の闇をゼロの地点にさそう-仮面にはらむ夏-梅の木にひざまずくとケンムンの木にこの葉落ち-庭園のイメージにながれる溝川とくらい洞穴

陽の堀をのがれ暗の扉にかくれるあなた

沢孝子



陽の堀を踏む足にこぼれる激しい水の言葉 石のようにこわばる壷の闇の記憶 表面の昭和のカレンダーに「神風」と「生神」という満ち潮の嵐がまきおこる 眼の水のかがやきで念じていた空へ 大和の剣が切り込む 袴の思想の移り変わりの 逃亡の形のよさを嫌悪する くりゃくりゃと舞う南のくらしの 歌を踊りの角にできたおできがあって 苦い歴史の水の肌の摩擦 諸関係のながれを 明治という近代の深い井戸を汲みとる目覚め 扇形にひろがる心の水の呪文の時間がうるむ

暗の扉の晴地がなしの古代の砂浜で 亀裂した愛の昭和のカレンダーにある嵐の夜を閉じてカナカナと泣く 体内にひびきわたってきた蛇皮線の ラブレターの満ち潮の呪文がやってくる あらゆる文字の骨をくだいた時間でかたりだす 巫女となった時代のくらし 角のおできにある亡びのリズムが目覚め 本土の袴の思想で泳いだ術の 逃亡の形のよさを嫌悪する 明治の近代の井戸底に立ち現れてきた座の琉球へと たぐりよせた巨大な帆の揺れ 飢えのくるいの海腹にこもっている害虫を吐く

大和の剣には骨をくだく文字の応戦 古代の砂浜の引き潮の精神が発酵する カナカナと泣く亀裂した列島の愛の祈りの 蛇皮線がひびく浮き草の体内のいたみ 民族の根が切られている不安と 巫女となった時代のドレイの自由な計算で 交わっていた陽の堀の 満月にある亡びのリズムの泳ぐ術 極限の春夏秋冬の死の断面に立ち現れてきた尼地ぶしょうへ 掘りおこす巨大な反乱の帆がある 恐くなっていく四季の渦暦の泡 泡 系幕が垂れ下がる組織の圧力の堀をのがれようともがいた害虫 グロテスクになる離別の海腹の恨みが 浜の小屋で嘔吐する 埋もれた掟のさまざまな飢えの現象を抱きしめる

琉球の座に今もゆがんでいく引き潮の精神の 地図に発酵する放浪の線路の浮き草の愛 民族の根が切れるところの雪の山で 自由なドレイの別れが計算した 南の砂利の一つ一つのふるえを確かめる 満月と交わる旅の終わりの死の断面 春夏秋冬に凝結する藩への反乱の 渦暦に浮かぶ武の泡の捕らえられない構造 グロテスクになって投じた鎌の浜の小屋には さまざまな掟へ焦る無知の判断がある 暗の扉にずーっとゆれつづけた夜這いの性器で 千年万年億年の大木の不安を抱きしめ 優しい神の警告を待つ 整えられてくる「神風」と「生神」を念じる空の 自然の器にある伝統の壷の闇の隙間をのぞいた もてあそばれてきたような苦い歴史の摩擦 水の肌の諸関係の感覚にある 作法の「気」にふれて扇形にひろがってくるくらしの殺意 信じることができるでしょうかと 異質な血を抜く夜の「呼吸」 石垣の扉にかくれたあなたの だらんとなる胸の乱れをなぞりつつ

(改稿)



Booby Trap No. 15



花器の雪にしずむ-城と洞の扉に炎がもえる-大和世に舞う-廃家のカマにある内紛の火種のイメージへ-茶壷のなかの風-陽の堀をのがれ暗の扉にかくれるあなた-浮世の船にゆれて-網膜の光を九九で解き 眼孔の闇をゼロの地点にさそう-仮面にはらむ夏-梅の木にひざまずくとケンムンの木にこの葉落ち-庭園のイメージにながれる溝川とくらい洞穴

浮世の船にゆれて

沢孝子




浮世の夢の船にゆれて 辿りついた夜のくるわ その水酔いの道程に 海の性をさぐる

浮遊がなしは裏切った しきたりの格子をひらき 大胆になる乳房の闇歌で巫女の座に

彼方に頑固な雲の瞳がまばたいて 袖口にながれた血の 赤い星の 笑い思いだす

異界の港でさわいだ蛇皮線にある月の嘔吐 立ち踊りの島のしぐさで 一瞬にして醒めていった無の海のひろがり

大和世に荒れている浮世の船の暴風 それからは黒豚の交尾の御馳走で夢の旅

服従していた琉球世の言葉で 出家ぶしょうの膝頭の定形を抱く 失われた愛で展開していたくらい海


乱立してきたさまざまな帆に たかだかと法螺ふくみだれ藻 かくれる島の岬に閉じていった貝

季節ごとになびいていく夜の器の 裏切っていく乳房の闇歌で 浮世のくるわの空にとなえる呪文

敗走していく夢の船は哀願だった 頑固な雲の瞳がゆれる袖口に さわぐ蛇皮線の赤い星はかがやいて

途方もない望みをたくした定形に月がかかり どうしたのだろうか 服従したくるわで抱く無惨な膝頭の嘔吐 すする海の湾の熱

古代から難破をくりかえしている台風を 黒豚の交尾の御馳走で浮世の船によびよせて まさつしていく赤い星の瞳


大和世に閉じていった貝の異常な展開で こんなにも築かれてしまった海の心のくらい屋形 失われた琉球世の言葉をさがして

浮世のくるわにいるメーレ(娘) 立ち踊りの島のしぐさで 酔いしれている水の刑の たわむれる夜の海の藻に 遊んだ日の岬に

格子を大胆にひらく闇歌のキヨラ(美しい) 古代の空にひろがる乳房で 踊りつかれている海の刑の さまよう夜の島に 訪ねた日の藁屋根に

黒豚の交尾の御馳走でクワガ(子供が) 一瞬にして醒めた心のくらい屋形 眠りつづけている夢の刑の よみがえる夜の黒糖に ふくらむ日の樽に


乱立してきたさまざまな帆にクッサル(殺される) 頑固な雲の赤い瞳がよびよせる 立ちあらわれる死の刑の うきあがる夜の月に 巫女となる日の器に

浮世のくるわで浮遊がなしは問うている 琉球世の立ち踊りの島のしぐさで 夜の海の蛇皮線のひびきで

浮世にゆれる船で出家ぶしょうに語っている 大和世の定形の愛を抱く無惨な膝頭で 古代から難破をくりかえしてきた台風で

(改稿)/



Booby Trap No. 16



花器の雪にしずむ-城と洞の扉に炎がもえる-大和世に舞う-廃家のカマにある内紛の火種のイメージへ-茶壷のなかの風-陽の堀をのがれ暗の扉にかくれるあなた-浮世の船にゆれて-網膜の光を九九で解き 眼孔の闇をゼロの地点にさそう-仮面にはらむ夏-梅の木にひざまずくとケンムンの木にこの葉落ち-庭園のイメージにながれる溝川とくらい洞穴

網膜の光を九九で解き眼孔の闇をゼロの地点にさそう

沢孝子



すぐに眼孔をのぞいてしまうのは 変化してきた網膜の 一瞬に心 を対比させて 生きてきた大和化の姿といってよいだろう プラス になっているかやと 水花がなしが問うている さまざまなくらし の掛け算があり 真正面の線上に 尻上がりにふくらんでいった水 花 踊る季節は 張りめぐらされた執念の式があり 九九で解いて いく 網膜の光がやってくる マイナスになっているよと 凍木そ うりょが答えている たのしいらくがきの割り算があり 虹のかけ 橋に尻下がりにたおれていった凍木 狂う季節は 弾きだされた情 念の式があり ゼロの地点にさそう 眼孔の闇がやってくる 困惑 している洗い骨のいのりの 光と闇の対比 変化する式には 動脈 硬化をおこす心のすみずみ 数字遊びでにらみながら  水花がなしと 凍木そうりょの プラスとマイナスのなぞなぞを  つつむ とにかく動脈硬化をおこすほどに 変化している眼孔の闇がある  切り捨てる割り算の 季節ごとのたのしいらくがきも 虹のかけ橋 の空白を埋めることはできない マイナスになっているよと 答え ていた凍木そうりょに 頬ずりしていた 尻下がりのたおれていっ た狂い その情念の式を ぴたりと止めた洗い骨のいのりに 拡大 されたのは ゼロの地点にさそう暗算の 死んでいる凍木の世界だ った またそれらと 対比している網膜の光がある 素早い掛け算 の 季節ごとのさまざまなくらしが 真正面の線上にこぼれおちる プラスになっているかやと 問うていた水花がなしは どくとくな 匂いをはなつ 尻上がりにふくらんでいった踊り その執念の式で くっついて生きてきて大和化の 離れられないだらしなさ 九九で 解いていく統計は 病んでいる水花の宇宙だった 眼孔の闇の死と 網膜の光の病の対比は いつ頃からか思いだせないが 凍木の暗算 と 水花の統計という 数字遊びの対比を笑いながら  凍木そうりょと 水花がなしの 切り捨てる割り算と素早い掛け  算にもえるなぞなぞ たしかに生きてきた大和化の宇宙 網膜の光には 病んでいった目 の星の告白がある ほうら むこうをみてごらん 真正面の線上に こぼれおちた 色もない淋しげな水花を その踊りは プラスにな っているかやと 問うている水花がなしの 生きてきた大和化で  構築していったさまざまなくらし ここだけと念願する素早い掛け 算の 病んでいった目の星のだらしなさ 尻上がりにふくれあがっ てしがみついた執念の式の 統計の告白を 九九で解いていく ま た洗い骨のいのりの世界 眼孔の闇には 死んでいた目の玉の遺言 がある ほうら とらえてみてごらん 虹のかけ橋の空白に埋めら れた 拒否しつづける鎮座の凍木を その狂いは マイナスになっ ているよと 答えている凍木そうりょ 洗い骨のいのりで 舞台化 していったたのしいらくがきの いまもなおもつ威厳を切り捨てる 割り算 死んでいった目の玉の描写で 尻下がりにたおれていった 拡大される情念の式は 暗算の遺言を ゼロの地点にさそう 色も ない淋しげな水花と 拒否しつづける鎮座の凍木を 対比する無縁 な数字遊びで 一瞬の心を きっと  水花がなしと 凍木そうりょのなぞなぞ 統計の告白と暗算の遺  言に透きとおる

(改稿)



Booby Trap No. 17



花器の雪にしずむ-城と洞の扉に炎がもえる-大和世に舞う-廃家のカマにある内紛の火種のイメージへ-茶壷のなかの風-陽の堀をのがれ暗の扉にかくれるあなた-浮世の船にゆれて-網膜の光を九九で解き 眼孔の闇をゼロの地点にさそう-仮面にはらむ夏-梅の木にひざまずくとケンムンの木にこの葉落ち-庭園のイメージにながれる溝川とくらい洞穴

仮面にはらむ夏

沢孝子



 仮面にはらむ夏  何か ジリジリと  世界の割れるかおではない  古代の軋むこころではない 花の散る舞台を演じている 巫女からもらった 都市に沈むむいしきの 犯罪のかお 三百年の海のことばがある にわか あやつってくる照明に すりよっているわらじの跡の 幕の裏の罪 蚕の死が…… 眼のなかをはしりだす その以前 三百年のむいしきに 割れてきた 都市の世界の 海のことばは 犯罪のかおになる 武の別れの舞台を演じている 巫女の座がますあつみ 列島に祈るむいしきの 犯罪のこころ 三百年の月のうたがある 不可解な ふりしきってくる和紙の雪に げきじょうしたらあしの跡の 幕のおもての罰 蛇の狂いが…… 唇のおくへのがれでる その前世の 三百年のむいしきに 軋んできた 列島の古代の 月のうたは 犯罪のこころになる  何か ジリジリと  仮面にはらむ夏の  割れた世界のことばのように  軋んだ古代のうたのように 海のことばで対話した 花の散っている舞台 一時は 都市のむいしきにある やわらかい三百年のかおで沈み 海ははしるおと 泉がなしの犯罪はあまりにも単純すぎる あやつってくる照明に ふるえていた幕間の展開があり 幕のうらの罪の 花の掟へすりよった時代の 蚕をかかえるわらじで 死の跡を演じている 星をかぞえた夜空のような 海にうねってくる掟を つきぬけていた空間の 三百年のむいしきに沈む 割れてきた 都市の世界の 海のおとが 犯罪のことばの器にふれていく 月のうたで交わっていた 武と別れている舞台 一時は 列島のむいしきにある ふせていた三百年のこころで祈り 月にのがれでたこえ 湖ぶしょうの犯罪の深さははかりしれない ふりしきってくる和紙の雪に こおってくる幕間の展開があり 幕のおもての罰の武の掟へげきじょうした時代の 蛇をおもうらあしで 狂いの跡を演じている 閉ざされていた隙間のような 月ににじんでくる掟へ よばいしていた共同体の 三百年のむいしきに沈む 軋んできた 列島の古代の 月のこえが 犯罪のこころの剣にふれていく  おとがする 割れた世界の  こえがする 軋んだ古代の  何か ジリジリと  仮面にはらむ夏がやってくる 巫女からもらった 都市に沈むむいしきの 「ああ なんて多い支配者」 三百年のおとの海のやわらかさで ひざまずいていた わらじの死の跡にある 幕のうらの罪の蚕をかかえて 花の散る舞台を演じては 築いていった日の うねっている海の掟 つきぬけていた空間の ことばの犯罪にある 器にふれて 都市のかおがわらっている 仮面にはらむ夏の かたくなな願望がわらいころげて その魅力となる にじむ月の掟 よばいしていた共同体の こえの犯罪にある 剣にふれて 列島のこころがいかる 武の別れの舞台を演じては とたんにひろがった年の しのびよるあらしの狂いの跡 その幕のおもての罰にある 蛇をおもって ふせていた三百年の月のこえが 解体していくための作業を開始する 倒れた巫女の座のあつみで 列島に祈っていたむいしきにある 「なんて多い ああ 支配者」へ 仮面にはらむ夏の 幕のうらの罪にある 都市が割れた世界の 海のかおのわらいを 幕のおもての罰にある 列島が軋んだ古代の 月のこころのいかりを わたしは 聞いたか! そこに座していた 巫女の 泉がなしの股座にある 蚕の死……その都市の器と 三百年のむいしきを支配している掟の 湖ぶしょうの肩肘にある 蛇の狂い…… その列島と剣とは きみは 無縁であるか! 何か ジリジリとやってくる 舞台を演じては 幕間に展開していた 「支配者は ああ なんて多い」と はしりだす 眼のなかを のがれでる 唇のおくを あなたは 見たか!

(改稿)

Booby Trap No. 18



花器の雪にしずむ-城と洞の扉に炎がもえる-大和世に舞う-廃家のカマにある内紛の火種のイメージへ-茶壷のなかの風-陽の堀をのがれ暗の扉にかくれるあなた-浮世の船にゆれて-網膜の光を九九で解き 眼孔の闇をゼロの地点にさそう-仮面にはらむ夏-梅の木にひざまずくとケンムンの木にこの葉落ち-庭園のイメージにながれる溝川とくらい洞穴

梅の木にひざまずくとケンムンの木にこの葉落ち

沢孝子



掌に機械がうごきだす 梅の木の先端に吊り下がってくる 鉄のような恋 そのいろは 解けないでいる あの時代の風 いやな想念がひざまずく ばしょう衣がなしが 詠んでいた句のつぶやき 街の交わりや 溝川の争い 傾いてくる胸に泥の家 点滅していた 国のなかの滅びの貌 朝がひざまずいている 鉄のような恋 そのいろの さびの言葉にほてる 解けない 風 梅の木の先端は地獄 腐っていく耳 機械がひびく 泥の家に立ち上がれ 胸にいくつかの応答 争っている街 溝川にみる 亡んでいく貌 交わりあう地獄 国のなかの朝の信号が がーんがーんと打ってきた掌 大和化の句をつくる 梅の木の先端に吊り下がる 腐っている耳 拡大鏡がのぞいた空の星群の沈黙 あらくれの偽装が問う 胸に立つ毒の木の さまよう言葉のわび 湖に散る恋の雪のいろを 拡大鏡の破れた瞳がのぞく 機構につながり この葉落ちて 星群は沈黙する あの白い時代 苦い思念がよこぎってくる スピードをだす権力を問う あらくれの偽装衣で 機構のつながりの 夜の夢の淵に埋まる ふるえている綾 かーんかーん打っていく空の 反大和の句のぬかるみ 散っている雪の恋の 滅びのいろを確かめて 湖の夜をさまよう かいこ衣そうりょが 詠んでいた句に 白い綾をたどり 権力のスピードをのぞく この葉落ちた 滅びる胸のぬかるみ 毒の木が立つ夢の淵に 破れている瞳 鉄のような貌の恋の想念の約束 溝川の機械の掌 立ち上がれない街 うつむく胸の泥の屋根は 国のなかの闇の信号と応答する はてしない古代からの不安 腐っている耳の ハブの心の地獄 海のひびきをかきわける 手早い変り身で 大和の藩の井戸を抜け ガジュマルの木に吊りさがる 点滅してくるさびの言葉にひざまずく ほてるいやな泉のつぶやき ガジュマルの木にハブの心の刺ひろう かたくなな赤土の時代 うつむく胸の泥の屋根に 滅びる島の踊る優しい年月がうねる たえずつぶやく ばしょう衣がなしが詠んでいた句の 溝川に約束する掌の想念 立ち上がれない街の鉄のような貌が 国のなかの闇の信号でうごきだす 腐った耳にある不安 はてしない古代からのひびき 海の地獄の応答となり ひざまずいた赤土のかたくなさに 優しい踊の年月がうねる 滅びる島の手早い変り身がさそう 大和化の句のハブの心 ガジュマルの木の刺をひろう 約束している掌 スピードだす権力をハブの心がのぞく 滅びる胸に島のぬかるみ 古代に埋まる夢の淵 機構につながる綾のふるえたどり ケンムンの木に破れる瞳のはげしい恋の別れ この葉落ち 変り身の早い幼い偽装衣が 木の股をかけのぼる 埋まる魔物の古代の夢の淵 ふてぶてしい星群の沈黙 するりと スピードだす権力かわし わびの言葉のさまよい抜ける ケンムンの木に破れる瞳の自由 恋の別れの魔物の解放の この葉落ち 背の波のするどさで かいこ衣そうりょが 詠んでいた句に 滅びる胸の島のハブの心が火花を散らす 苦い思念の泉がわきたつ 拡大鏡がのぞく反大和の句 白い綾の波の背はするどい 木の股をのぼる記憶のはげしさに するりとかわす変り身の早さ つながる機構をよこぎる わきたつはげしい泉の 潮が引いていく寂しさ 星群の沈黙するぬかるみ確かめ 拡大鏡のふてぶてしさで破棄した空 ケンムンの木の股をのぼる 滅びている胸

(改稿)



Booby Trap No. 19



花器の雪にしずむ-城と洞の扉に炎がもえる-大和世に舞う-廃家のカマにある内紛の火種のイメージへ-茶壷のなかの風-陽の堀をのがれ暗の扉にかくれるあなた-浮世の船にゆれて-網膜の光を九九で解き 眼孔の闇をゼロの地点にさそう-仮面にはらむ夏-梅の木にひざまずくとケンムンの木にこの葉落ち-庭園のイメージにながれる溝川とくらい洞穴

庭園のイメージにながれる溝川とくらい洞穴

沢孝子



庭園のイメージにかこまれる不安のようなもの 張りめぐらされた金網の少女 孤独なくらしの 秘密の心に流れる溝川とくらい洞穴 拆を打つ溝川の音があり 祖霊を祈る洞穴の声があり その不安の本質は見分けられない 子供が生まれ 孫が生まれ 平和なムードにやってくる 危機の空がある 汗つぶ 牛の息 煙 ヤットコ コンベヤー たれてくるさとうきびの思い出に 硬直してくる月 呼び寄せる空の舌がなぜまわしている象徴 噛みしめている 飢えの深さの緊張の 一メートル五十センチの幅をもつ 秘密の心をながれる溝川 庭園のイメージに 叩きはじめる拆の音の 照らしだすサーチライトの夜の頭脳が さそいだすハブのうねりで もぐりこむくらい洞穴 たれてくる金網の少女の思い出に 不可解なニジの組織があり 警告の雨に濡れる 恋文に引きずられる夕暮れの ぽき、ぽき、と骨をけずる耳の病 救急袋にしまいこんだ履歴をふりかえる ニジのぶしょうの組織の位置 庭園のイメージに救急袋の異様な目が濡れる 行けとむかっていった 秘密のくらい洞穴の 異質な空間のつぶやきがあり 祖霊の毛をかきわけて模索した 少女の金網の無知にしみる やくざな幼虫 踊りくるう形相 飢えの本 鉄板の性器 固い言葉の皮膚をむいて 捨ててきた祖霊を抱きよせる夜の物語 夕暮れになるとひきずる恋文の 沈黙の風の誘いが怖い 三LDKの団地の居間に 二千年の衣を脱ぐ決意があり 覗きこむ 秘密の心のくらい洞穴 三百本の竹が乱立してくる嵐のてざわりに 庭園のイメージへ 龍巻となりわきあがってくる祖霊の祈り 都会の孤独なウニの子育てがある 皮膚の刺の年月 閉じてくる海の言葉の 愚痴のどじょうがながれだす溝川 怒る茶碗の秘密の心には 金網の少女の長い道のりの旅 無知にかがやく星群の死霊の出会い 行けとむかっていった 異質な空間のつぶやきにある 皮膚の刺の都会の位置を確かめて 受身である茶碗の みもだえるどじょうの 置き去りにした海の大画面をひろげる ウニがなしへ添い寝する愛 拆をたたいているうす笑いのハブのうねりで 庭園のイメージへ 牢獄となる道のりの 脅迫観念の死霊の空を噛みしめる 冒険を試みて爆発となった根や草や土 庭園のイメージへ 背負う竹籠の逆らい 大地に戯れる神の糞を拾い集めた 金網の少女の掌には きらきらとひかる汗つぶ 転々とした労働の煙 牛の息にある無知 ヤットコがかきまわす空 コンベヤーに運んだ神の糞 石垣にたれるさとうきびの死があり 踏切に硬直した月の失恋があり 耳の病のつぎはぎだらけの言い訳 隠す履歴のじめじめした救急袋のかたくなさ やくざな幼虫がずりおちる 踊りくるう形相の摩擦がある 飢えの本でよこたわる樽腹の 居心地のよい鉄板の性器をひらく 愚痴のどじょうをなぜる風の 怒りの茶碗がだまりこむひだまり 古代からの抵抗のような長い道のりに 堪えきれない無知の空にかがやく星群 死霊がかけめぐる海鳴りを追うと 空を切断した法令がたれてくる 大地の戯れの神がみが振り落とす 金網の少女が背負う竹籠の海の言葉の亀裂は忘れない 校舎の威力の砂浜の根の草 ウニがなしが語る壷の骨の物語 くりゃくりゃ二千年の衣のてざわりにもえる ニジのぶしょうと別れる泉の石の恋文 がやがや不可解な組織の警告にわきたつ 庭園のイメージに 置き去りにした海の大画面をひろげ 冒険を試みる爆発 よこたわる樽腹の裸景をさらす ケンムン(悪霊)とつきあう優しさ ずうずうしく拆を叩く居心地の自由さ 祖霊の祈りの原点にうずくまる 壷の骨の極限にある 物語のくりゃくりゃ 泉の石の交尾にある 恋文のがやがや 興奮してくる ケンムンとつきあう優しさの 古代からの抵抗のような秘密の心 庭園のイメージに 一メートル五十センチの溝川のながれと三百本の竹が乱立してくる洞穴のくらさと

(改稿)



Booby Trap No. 20


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