運送業
もとはと言えば、
ギリギリまで粘っていたのが悪いんだけどさ、
駅に着いてみると、
終電に乗れるかどうか微妙な時間。
乗り継ぎがあるもんだから、
帰れるかどうかよくわからなくて、
駅員さんに聞いてみたわけ。
半蔵門線渋谷方面乗れますかね。
そういうことを訊く客はあまりいないのかしらん?
あわてた様子でいろんな表をひっくり返し、
自信なさそうに、もうないですね。
それじゃあ日比谷線中目黒行きは?
そっちはありますね。
半蔵門線の乗換駅に着くと、
どやどやと客が降りていくので、
おかしいなと思ったんだけど、
駅員様がおっしゃったことだから、
よもやまちがいはあるまいと、
日比谷線の乗換駅まで行って、
今度はそこの駅員さんに訊いてみた。
中目黒で東横線まだありますかね?
するとさっきの駅員さんよりもさらにあわてた様子で、
こちらに書いてありますからどうぞと、
ホームの端まで引っ張っていき、
柱に貼ってある表を必死に見ている。
こちらの方が先に目的の数字を見つけて、
ああ、ありますね、よかった、どうもありがとう。
もっとも中目黒で乗れた東横線は元住吉止まり。
次の日吉まで行ってくれれば、
深夜バスに乗れるかもしれないところだが。
ここで手持ちのバス時刻表を見ると、
元住吉に最終電車が着いてから約十五分後に、
最終の深夜バスが日吉を出発することがわかった。
このバス日吉でいったい何を待っているんだろう?
ちょっと不思議な気もしたが、
電車から吐き出された元住吉から、
間に合うのかどうか半信半疑、
だんだん小走りになりながら、
バス停に止まる深夜バスのライトが見えた。
時間はギリギリ。
最後は全力で走って、
あと二十メートルのところまで迫ったが、
バスは発車の右ウィンカーを出している。
おい、ちょっと待ってくれ、
回りの人が振り返るくらいの声を出したが、
そのまま行ってしまった。
あのバスいったい何を運んでいたんだろう?
結局、日吉から四キロ歩いて帰ったのだった。
その日は尼崎の鉄道事故からちょうど一年という日だったのだが、
事故はどこかできっとまた起きると直観した。
後日調べたところによると、
他の客と同じように降りていれば、
半蔵門線には間に合っていたし、
四キロも歩かずに済んだらしい。
もとはと言えば、
運送業を信じてギリギリまで粘っていたのが悪いんだけどね。
(C) Copyright, 2007 NAGAO, Takahiro
|ホームページ||詩|
|目次||前頁(順調な日曜日)||次頁(人間機械論 )|
鈴木志郎康氏評
PDF版
PDF用紙節約版