特に内容は秘すが、 その日は大変な話し合いをしなければならなかった。 大変だということは予想できていたが、 どのくらい大変かまではわかっていなかった。 実際に話し合いに入ってみると、 相手は思いのほか強い姿勢で臨んできたが、 こちらとしても生活を守らなければならないので、 一歩も引くわけにはいかなかった。 しかし、一歩も引けない事情があることは 相手も同じだということがわかってきた。 相手にとっても死活問題なのだ。 相手の要求を丸呑みするという形で それを解決することだけは 何としても避けなければならなかったが、 ほかの形で相手の問題を解決することは できそうだった。 いわゆる落とし所が見つかったというわけだ。 そこからあとは、 見つけたところに向かってまっすぐ進んでいったので、 双方ともほぼ満足して話し合いを終えた。 火種が完全に消えたわけではないが、 その日にカタストロフィに陥ることは避けられた。 よかった。 時間としてはそれほど長くはなかったはずだが、 身体の芯から疲れた。 しかし、まずまずの結果が得られたので、 その疲れには心地よさも含まれていた。 帰路に向かう前にトイレに行った。 手を洗ってポケットからハンカチを 取り出したつもりだったが、 出てきたのは靴下だった。 普段ならそんなことはないのに、 その日に限って、 靴下だった。2013年6月