店で鍋の世話をしてくれていた お姉さんの名札を見て、 亡くなった知人のことを思い出した。 四、五日前に 顔だけ思い出して、 どうしても名前が思い出せなかった。 深く行き来があったわけではない。 年齢とか、家族構成とか、勤め先とか、 そういった形ばかりのことしか知らず、 亡くなったのを知ったのも、 しばらくたってからだった。 ただ、こちらが勝手に好感を持っていた、 という、ただそれだけのこと。 亡くなったと知っても、 知らせてくれた相手に、 そうですかと言うだけだった。 それでも、顔だけ思い出して、 名前が思い出せなかったときは、 気がとがめた。 彼はもう文句も言えないのに、 ずいぶん薄情じゃないか。 楽しい時間をくれた人だったのに。 だからかどうか、 記憶の中に名前がよみがえってきたときには、 自分でも不思議なくらいの 充足感があった。 よかった、 生きていた。 こちらの勝手な思いでしかないのだけれど。